【たった一人のビブリオバトル】佐藤忠男「黒木和雄とその時代」

 こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。

 昨夜、「エッセンシャル思考」を通読したのに続き、今朝(4月9日)は、相当昔に買った佐藤忠男黒木和雄ととその時代」を改めて通読しました。著者の佐藤氏は、1930年生まれの映画評論家であり、この本は2006年の著作です。この本のゲラチェックをしている時に黒木監督が急死したということです。 

父と暮せば

父と暮せば

 

  本は、アマゾンで出てきませんので、黒木監督晩年の代表作を・・・。 

 この本は、黒木監督と同世代である佐藤氏が黒木監督の映画界の系譜を代表作に触れつつ紹介していくというものです。「その時代」というのは、同年代の佐藤氏の時代でもあります。すなわち、「軍国少年」として育ち、敗戦とその後の混乱を経験し、インテリ青年のご多分に漏れず内外の左翼思想に憧れるかあるいは実際に行動して更に失望したという「時代」です。

 黒木監督の経歴はこのような感じですね。

 

ja.wikipedia.org

 ウィキを読んでしまうと、この「黒木和夫とその時代」を読まなくとも済んでしまうということになってしまうのですが、やはり、1930年という同年齢の映画評論家が書いた本には独特の匂いのようなものがあります。黒木監督の経歴は、岩波映画でPR映画を撮ることに始まり、ATGでの活動を経て、独立派の制作活動を経つつ、最終的には、「Tomorrow/明日」、「美しい夏キリシマ」、「父と暮らせば」及び「紙屋悦子の青春」という「戦争三部作」(あるいは四部作)で終焉を迎えるというものです。

 これら「戦争三部作/四部作」は、岩波映画において単なるPR映画に収まらないPR映画を描き、左翼や共産主義に対する幻滅が広がるまでの「革命近し」という(ソ連崩壊後の世界に生きている我々にとっては理解が困難な)時代精神の中で「キューバ革命」や「原子力戦争」を撮ってきた黒木監督が冷戦後の世界で折り合いをつけた作品であると思います。

 以上、とりあえっずっす!

 

 

 

 

【たった一人のビブリオバトル】「エッセンシャル思考」

 こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。

 今回は、クロネ師匠のブログで紹介されていました。「エッセンシャル思考」を一読しましたので、感想をアップします。

エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする

エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする

 

  良くあるノウハウ本の一つであるとカテゴライズしても構わないと思います。重要なのは、カテゴライズやレッテル貼りではなく、いかに役に立つかということですから。当然ながら原書は英語で、恐らくはある程度大部だったんではないかと思いますが、訳語がこなれており、頭に入りやすいですね。

 この本では、「エッセンシャル思考」と「非エッセンシャル思考」が繰り返し並列しています。では、「エッセンシャル思考」とは何かと問われたら、その一面は、人生の「目的」を達成するために、無駄を排するための生きるための思考・技術です。

 このような本が必要なのは、現代社会では有能であるにせよ、必ずしもそれほど有能でないにせよ、自分で選択せずに無駄なことをすることを強いられているからです。いつの間にか、我々は適切に「選択する自由」を奪われてしまっているのです。

 米国の企業社会も日本と同様、ある意味では日本以上にワーカホリックです。この本ではある「パラドックス」が語られているのですが、ある企業に有能な人材がいるとします。この人は、正しい道を進んで大いに成果を挙げているとします。すると、その上司も同僚も部下もその人を頼みにして色々な仕事を依頼してくるし、更には社交にも誘ってくる。有能で社交性もあるからして、そのような依頼などを受け入れていると、身動きが取れなくなってしまいます。

 このような「パラドックス」に陥るのを防ぐためには、「断る力」が必要です。また、多くの無駄が存在するネットにからめとられないためには、敢えてネットに触れない時間を作る、孤独に耐えて読書や思索をする時間と場所を確保することが必要っだと筆者は説きます。この本では、「七つの習慣」のスティーブン・コヴィーが娘との約束を守るために仕事の依頼を断るというエピソードが語られていますが、自分の人生の「本質」を守るためには勇気を出して断ることが重要だと説きます。 

完訳 7つの習慣 人格主義の回復

完訳 7つの習慣 人格主義の回復

 

 この本の中で、家に四つのガス台があるとしてその内の一つを消すことがベターであればそれをためらうべきではないという記述があります。そして、3つよりも2つの方がベターかもしれないというのが更に筆者が説くところです。この本で繰り返し説かれれるのは、「無秩序な拡大」は機能しない、「真の目的」(そして、それは刺激的かつ具体的でなくてはなりません)を意識して、より少ないことをよりよく行うことです。その一つの例として、「すきやばし次郎」の小野さんについて描いた「二郎は鮨の夢を見る」が言及されているのは日本人としては興味深いことです。 

二郎は鮨の夢を見る

二郎は鮨の夢を見る

 

 

 雑然とした文になりました。中々良い本です。今後、補足するかもしれませんが、取り敢えずのご紹介です。

 

【時事英語に学ぶ】イスラエル総選挙直前!20190405NYTオピニオン

 こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。時事英語からも学びます

 前回記事はこんな感じでした。英国はどこに向かうやら。

 

upanddown.hatenablog.jp

 今回はイスラエルです。来週、同国では総選挙が実施され、10年以上に亘って同国政界で重きをなしてきたベンジャミン・ネタニエフ首相に汚職疑惑が出ており、今回の選挙では同首相が率いる与党リクードが敗北するのではないかとの報道がよく見られます。勿論、ネタニエフ政権のイスラエル経済への貢献は大きなものがあります。読売新聞は数回に亘って「イスラエル争点の現場」という短期特集記事を書いていますが、4月6日付の最終話では、「ハイテク等への投資でイスラエルが大きく成長しつつも、貧富の差が拡大している」 というトーンになっています(2017年のイスラエルへの海外投資は過去最多の189億ドル。一人当たりGDPは41,180ドル)。今回取り上げるNYT常連コラムニストブレット・スティーブンス氏のオピニオン記事では、イスラエル社会に内在する幾つもの分断が語られていますが、約1120億円をハイテク関連企業に投資した富豪と平均月収(約30万円)以下で生活する7割の国民の間の分断というものもイスラエル社会にはあるのでしょう。

 この読売新聞記事末尾では、「野党の中道統一会派『青と白』を率いるガンツ参謀総長は、政府が格差対応を怠っていると批判した上で、『一部に独占された市場を国民に開放していく』と訴え、支持を集めている」との記述があります。今回のブレット・ティーブンス氏の記事は、ガンツ氏とのインタビューを含めてのものです。なお、前回、スティーブンス氏のオピニオン記事を取り上げた拙ブログの記事は以下の通りです。

 

upanddown.hatenablog.jp

  なお、今回、イスラエルを取り上げるは、この読売新聞の特集記事を読んだことが契機になりました。ルポ的な記事の常道は、視覚にも訴えるエピソードが配され、その後、事実や分析が追加されるというものですね。この読売新聞記事は、この常道も押さえてあり、大変読みやすいものでした。この目で見てみると、スティーブンス氏オピニオン記事も同様ですね。

 閑話休題

 

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 タイトル仮訳は、「ユダヤ人の記憶とイスラエル総選挙/ネタニエフ首相への対抗馬が勝利に値する理由」としておきます。この記事はまず、激戦の総選挙戦の中で、1982年に戦死したイスラエル軍下士官の遺体回収のニュースから始まります(記事の中では、選挙戦中の遺体回収は現職のネタニエフ首相の有利に働くのではないかとの観測に対して、筆者が否定的なのはインタビューを通じてガンツ氏にほれ込んだところがあるのかもしれません。)。1982年と言えば、イスラエルレバノン侵攻を行った年です。次いで、筆者はイスラエル国家について思いを馳せます(前回の対イラン制裁の記事を見れば、筆者が親イスラエルであることは明確ですが、この数パラは中々の名文と言えます。)。

  There are things that matter more. Keeping faith with the fallen and bereaved is one of them.

  Anyone who has lived in Israel gets this. It’s a young and improvising state resting atop an ancient and profound civilization. At the heart of the civilization is common memory. Elections come and go; memory accretes. It is to everyday life what geology is to flora and fauna: grounding, shaping, slow-moving, still-growing. Memory is the true land of Israel.

  The Israeli government spent 37 years tracking Baumel’s remains to Syria and negotiating their recovery through Russia. The country will expend similar efforts to bring home other fallen soldiers held in enemy hands. It’s the core of the Jewish state’s social contract. It may not be able to keep its people safe, much less make them rich. But it will never forget or forsake them.

 

(仮訳1)物事にはより重要なものがある。(戦場で)倒れて亡くなった兵士に敬意を払うことはその一つである。

  誰でも、イスラエルに住んだことがあればこの敬意を得る。イスラエルは若く、常に試行錯誤を行なっている国であり、長い歴史を有する深遠な文明の上に納まっている。この文明の中核にあるのが共通の記憶である。選挙は通過していくものであるが、記憶は堆積する。記憶が毎日の生活に対するのは、地質が動植物に対するのと同様である。地を作り、形成し、緩慢に動き、緩慢に成長する。記憶はイスラエルの国土である。 

  イスラエル政府は37年間を費やして、バウメル軍曹の遺体の行方をシリアまで追いかけていき、ロシアを通じてその回収について交渉した。この国は、死亡して敵の手に落ちた兵士を故国に取り戻すために同様の努力を払うことにしている。これは、ユダヤ国家の社会契約の核心である。これは、イスラエル国民を安全にするものではないかもしれない。豊かにするものでは更にない。しかし、イスラエルは亡くなった兵士を忘れること、あるいは、見放すことは決してない。

                (仮訳1終わり。下線及び太字は引用者による。)

 

 センチメンタルな香りもする文章です。元々親イスラエルな米国人はこのような文章に大いに感銘を受けるでしょうし、そうでなくても一定の感銘を受けるでしょう(ただ、逆に反ユダヤイスラエル的な人々にとっては唾棄すべき文章かもしれませんね。)。訳でやや難しいのは、「improvising」でしょうか。ジャズ音楽の「即興」や手テロリストが製造して使うIEDの「即席爆弾」を使う訳にもいきません(「即席国家」?)。1948年の建国以来のイスラエルの生きてきた道(そして、現在も未来も)は、激動する環境の中で創意工夫して生き残り繁栄するための絶えない努力に基づくものであったことから、完全にぴったりするか分かりませんが、「常に試行錯誤を行なっている」としてみました。どうでしょうか。

 さて、スティーブンス氏はワシントンで「青と白」(イスラエル国旗をイメージしたもののようですね)を率いるガンツ参謀総長にインタビューしたとのことです。こういう人ですね(ウィキ日本語版はできていないようです。)。

 

en.wikipedia.org

 スティーブンス氏はガンツ氏に好印象を持ったようで、インタビューにそれほど注目すべき点がなかったことにも気にしていないようです。よくいるイスラエル人の特徴という自信があり、要点をすぐに述べ、しかも偉ぶらないという態度にも高得点を与えます。それでも、ガンツ氏の応答の中で注目すべき点を幾つか述べています。それらは、ネタニエフ首相への評価/同氏との連立の可否、パレスチナ国家、ユダヤ教キリスト教イスラム教への平等な礼拝の場所を与えることの可否、パレスチナについてのイスラエルの安全保障上のニーズ、対米関係等について質します。

 筆者は、ガンツ氏への質問の一つを最重要なものと考え、そこからガンツ氏と同様ネタニエフ首相の功績を認識しつつ、地域の敵国が一致して当たっても打ち勝つことができないほど強力なイスラエルの現在の問題は対外関係ではなく、国内での分裂であると論じます。ちょっと長いですが、リズムのある結論部分ですのでまとめて訳します。

 On what distinguishes his party from Netanyahu’s: “We have left and right; religious and secular; Druse; ultra-Orthodox women. Unity is very important. We cannot agree on everything but we must agree on the framework. … Netanyahu currently lives off this separation [between various Israeli groups]. I’m talking about my priorities, but I’m talking to everyone. He’s appealing to his base.”

 That last observation is the essential point. In many ways, Israel has defied expectations and done remarkably well over the past decade. Much of this has been Netanyahu’s doing.

 But it has come at the cost of increasing divisions between Israeli and American Jews. And intense divisions between Orthodox and non-Orthodox Jews. And embittering divisions between Jewish and non-Jewish Israelis. And between the hard-right and everyone it deems a sellout — an ever-growing group when one practices the politics of loyalists versus traitors, as opposed to the politics of friends and potential friends.

 None of these quarrels are about Israel’s enemies, who are real, deadly, and growing in number. But the quarrels have become enemies in themselves. Israel is powerful enough to defeat any of its regional adversaries, in almost any combination. It can survive the challenge of the Palestinians and binationalism, too. Whether it can survive its own descent into sectarian and ideological tribalism is another matter.

 

(仮訳その2)

 「青と白」党がネタニエフ首相のリクード党と相違する点について。「『青と白』んには左派も右派も存在する。宗教的な者も世俗的な者もいる。ドゥルーズ派も、超正統派の女性もだ。連帯が大変重要だ。我々は逐一同意できるわけではないが、フレームワークには合意しなくてはならない...。ネタニエフ首相は現在、様々なイスラエル内の集団の分離に依存している。私は自分の優先順位について話している。しかし、私は全ての人々に話す。ネタニエフ首相は自分の支持基盤にアピールしている。」  

 この最後の観察は、最重要のポイントだ。多くの場合、イスラエスは期待に打ち勝ち、過去10年間特筆すべき成果を挙げた。その成果の多くはネタニエフ氏によるものである。

 しかし、この実績は、イスラエルと米国のユダヤ人の更なる分裂というコストを払ってのものである。また、伝統的なユダヤ人と非伝統的ユダヤ人の間の分裂もある。苦い感情を喚起するユダヤ系と非ユダヤイスラエル人の間の分裂。そして、強固な右派と彼らが寝返り者とみなす全ての人間との間での分裂である。成長しつつあるこのグループでは、忠誠心ある者と裏切り者という政治を行い、友人と潜在的な友人を想定する政治には反対するのである。

 いかなるこれらの争いもイスラエルの敵に関するものではない。イスラエルの敵は現実的であり、極めて攻撃的であり、数が増えている。しかし、これらの争いはイスラエル国民の中の敵についてのものである。イスラエルは強力であり、地域の敵対勢力がどのような組み合わせを取っても打ち破ることができる。イスラエルは、パレスチナ人とニ国主義の挑戦を受けても生き残ることができよう。イスラエルが分派的・イデオロギー的な部族主義への自分たちの転落の中で生き残ることができるかは別問題である。 

                            (仮訳その2終わり)

 

 いよいよ明日はイスラエル選挙です。4月8日本邦紙朝刊では、与党連合有利との観測です。その国のサイズに似合わない国際的存在感を有するイスラエル。その動向に今後とも注目していきたいと思います。

 お立ち寄りいただき、ありがとうございます!

 

【ブログ運営報告】初心者ですが、3ケ月継続しました!

 こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。ブログ運営報告します。

 現在まではちょこちょこ報告していたのですが、今後は基本的には一か月ほどの報告にしようと思ってます。記事数稼ぎみたいな感じがしましたし、ブログ運営を報告するよりも、より濃い記事を書くのが本分だと思ったからです。ちなみに、前回のブログ運営報告記事はこんなもんでした。中身薄っ!

 

 

upanddown.hatenablog.jp

  

 ブログ運営報告は定型化しやすいです。そもそも、実体が大きく難しく把握も描写もしにくいものを扱っている訳ではないので、取っつきやすい。指標もあるので、数量で示しやすいというところも取っつきよさの理由です。しかし、それに過度に甘えることなく、他のカテゴリーを磨くべきだと思ってます。

 現在、拙ブログは(平成31[2019〕年4月7日現在)10カテあるのですが、その中で継続していないものもありますし、内容が不十分なものもあります。定型化の術が分かって10記事くらい書ければ、更に深めることもできるとは思っていますが、その「臨界」に到達していないカテが過半数です。まあ、成長期が異なる植物と考えて気長に育てればいいのかなとは思っています。

 さて、3ヶ月の間に、143記事を公開しました(この記事の前まで)。掲載数ベスト3は、「日本酒の世界に酔いしれる」、「時事英語に学ぶ」、「ブログ運営報告」でしたね。「ブログ運営報告」がぶっちぎられて4位以下になれば良いと思っています。それにしても、自分のカテを見るにつけ、誰しも関心のあるものばかりですね。ですから、ライバルも多いです。それぞれの道のプロと伍して行くためにはまあ、「持久力」が必要かなあなどと思っています。

 3ヶ月の累積PV2744でした。1ヶ月目及び2ヶ月目の勢いが減退しました。1日のPVが3桁を経験した日もあったのですが、一時多忙な時期にブログが更新できない時期があったものですから。今後はシステムを改善して毎日少なくとも1記事は更新していきたいと思っています。それと共に必要なのは、内部リンクの充実や見出し追加を含む「読者本位のリライト」だと思っています。

 累積PVよりも嬉しいものがあります。それは、今までに累積したはてなスターですね。平成31(2019)年4月6日現在、1818個はてなスターを頂いています。数少ない固定読者の皆様、力付け誠にありがとうございます。今後とも、固定読者の方々をもっとうならせることができるブログを目指します。

 中長期の見通しはまだまだできませんが、「雑誌ブログ」ならぬ「図書館ブログ」を目指すつもりです。そして、大きな目標が巨人の星にのように輝いております!

 

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 あと、クロネ師匠!初心に帰って、クロネ講座を読み返さなくちゃ!100記事講座は、むしろ100記事を書き上げて後読むべきというのはまさにその通りですね! 

kurone43.com

 

 ご一読いただき、ありがとうございました!(結局、記事数稼ぎしちゃいました・・・w)

【時事英語に学ぶ】英国メイ首相をこきおろす 20190329NYTオピニオン

 こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。時事英語からも学びます

 英国のEU離脱、いわゆるブレグジットは日本の新聞でも大きく取り上げられていますから、拙ブログで取り上げるのはハードルが高いですね。この記事をゆるゆると書いている間にも事態は動いていますし、それを逐一把握してまとめることは個人では不可能です。

 「図書館ブログ」(笑)を目指す当ブログでは、このブレグジット騒動が収まっても(なかなか収まらないとは思いますが)興味を持って頂ける記事、中々日本の新聞では取り上げられないような記事を取り上げていこうと思います。その一つは「政治指導者論」です。

 ということで、今回は、ロンドン・タイムズ紙のコラムニストが英国メイ首相をこき下ろすオピニオン記事を取り上げます。”Is Theresa May the Worst Politician Ever?/The British prime minister’s deal has failed. Again.”という記事で、「テレーザ・メイは最悪の政治家か?/(ブレグジットに関する)英国首相の試みは失敗。またしても」というのがタイトル仮訳。「deal」という簡単な単語が実際には難しいです。

 

www.nytimes.com

 ブレグジットについては、トム・フリードマンがロンドン発のオプエドを書いていて、そこでは、フランスの閣僚が猫に「ブレグジット」と名付けたとの挿話が紹介されています。何故?実はこの猫、家の中にいると外に出たがります。でも、いざ飼い主がドアを開けてやると逡巡して家の中をうろうろ・・・この仕草が現在の英国の状況を想起させるからということです。英国に厳しいマクロン大統領率いるフランス政府の閣僚らしい皮肉ですね。 

 

www.nytimes.com

 

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 さて、筆者とメイ首相との邂逅は8年前の国際女性デーの際に首相官邸で開かれたパーティでのことです。一人でぽつねんとしているメイ内相(当時)に話そうとすると他の女性ジャーナリストからは、「メイ内相は何も話してくれないわよ」と言われます。そんなことはあるまい、政治家にとってジャーナリストとの関係は重要だし、と思って話をしてみたら、実際、どんな話を向けても簡単な(「一音節の」)答えが返ってくることに当惑したということです。印象的な挿話を冒頭に持ち出して読者を引き込むというストレート・ニュースでさえ使われる公式が使われているわけです。その後は、メイ首相が政治家としていかに異質か、また、そのことがブレグジット問題にどう影響しているかが描写されます。

  When Mrs. May unexpectedly became the Conservative Party’s leader optimists hoped that despite her dullness — or perhaps because of it — she would be a cautious, careful prime minister. As a former Remainer she could have sought common ground between both Leavers and the 48 percent of voters who wanted to stay. It quickly became clear she would do no such thing.

  Mrs. May has made dozens of strategic mistakes in the past three years, from calling a general election that destroyed her parliamentary majority to vindictively sacking talented members of her cabinet who had previously opposed her, to allying herself with the most destructive and intransigent Brexiteers in her Conservative Party.

  Each of these errors has stemmed from the same fatal flaw: her belief that she can lead and win without paying attention to what her allies, enemies, colleagues — and potential collaborators — want or think. Famously wooden, she seems to regard other crucial players in politics as pieces she can move around a chessboard without motivations of their own.

  European Union officials and European leaders have reeled at Mrs. May’s rigidity in Brexit negotiations over the past two years. But this is no surprise to her colleagues. A senior politician who spent years alongside her in the cabinet says that Mrs. May never understood the concept of negotiation. She simply expected the other side to give way. “With most people you go into a room and you say, I need X, you need Y, and the two of you end up with Z. It’s iterative, a compromise. She just doesn’t work like that.”

 

(仮訳)メイ氏は予想外で保守党党首になった際、楽観的な考えの持ち主は希望を抱いた。その退屈な性格にも拘わらず、あるいは、その性格の故に、メイ氏は慎重かつ丁寧におとを運ぶ首相になるのではないかとという希望である。元々EU残留論者であるメイ首相は、EU離脱論者とEU残留を望んだ48%の有権者との間の共通基盤を追求することができたはずである。すぐに明らかになったのはメイ首相はそんなことをしないということだった。

  メイ首相は、この過去3年間、多数の戦略的失敗を犯した。それは、議会での多数を無くした総選挙の実施、過去に自分に反対した才能ある閣僚を報復的に罷免したことから、保守党内で最も破壊的で非妥協的なEU離脱論者と組んだことに及ぶ。.

  これらの間違いはすべて、同じ致命的な欠陥であるメイ首相の信念から生じた。指導力を発揮して勝利することは、盟友、敵、協力者となりうる同僚議員の望みや考えに注意を払わなくてもできるという信念である。 ぎこちないことで有名なメイ首相は、政治における他の主要なプレーヤーを駒と見なし、彼ら自身の動機がないままにチェス盤上で動かせると考えたようだ。

  EU事務局関係者やEUの指導的政治家は、過去二年間、ブレグジットに関する交渉におけるメイ首相の柔軟性の無さに面食らった。しかし、これは、メイ首相の同僚にとっては驚きではない。メイ氏で内閣で長年ともに過ごしたベテラン政治家によると、メイ氏は交渉のコンセプトを全く理解していなかった。メイ氏は、単に相手側が諦めるのを期待するのみだ。「ほとんどの人間については、ある部屋に行って自分はXが欲しいと言い、相手がYが欲しいと言う。そして、双方がZで収まることになる。これは繰り返しであり、妥協である。メイ首相はこのような動き方をしない。」(仮訳終わり)

 

 この他にも、メイ首相は自分の置かれている政治的状況を理解しつつ、政治家や外交官などと様々なブレストをしてより良い策を生み出すという知的敏捷さを好奇心を欠いている、それよりも、ごく限られた側近や夫と議論をすることだけであるという観察があります。それでも、この数年間、居心地が悪い中で保守党党首・首相として働いてきたのは、その生い立ちから保守党に愛着を有しており、そのために英国国家のためよりも保守党の連帯を優先した結果、自分の政治的な生命のみならず、英国の国益も毀損したというのが筆者の結論です。

 行政府の長が直接選挙で選ばれる大統領制の国と違い、議院内閣制の国では、政治家同士のうちうちの評価プロセス(peer review process)で行政府の長が選ばれます。後者においては、ともすれば激情に基づいて政治の「素人」たる民衆が短期的に最高指導者を選ぶのではなく、「玄人」たる政治家が長いプロセスの中で真に有能な指導者を選んでいくとされているわけです。しかし、結果として国家の利益を毀損することになる「本来指導者たるべきでない人物」が指導者になってしまうことはあるのでしょう。   

 一つの国家は職能団体の集合であると見なすことが可能です。そして、その構成員の選定・分限・指導者の選択をきちんと行う職能団体が多ければ多いほど、その国家は強力で健全なものとなると思います(汚職等によって職能団体が往々にして機能していない国が発展途上国です。)。そして、個別の職能団体であれば、固有の困難さはあっても試験等によって構成員の選定等を適切に行うことは比較的容易です。

 しかし、国内の全ての職能集団の利害調整を行なって「最大多数の最大幸福」を達成することが使命である、最も重要な職業である政治家の選定等の基準は得てして曖昧です。そのために、この記事の筆者が述べるように本来であれば危急時の英国のかじ取りをすべきでない人物が首相になって貴重な時間を空費することになってしまうのでしょう(私は、現在の事態に立ち至ったのはメイ首相のみの責任ではないと思いますが・・・・)。

 政治家とは因果な商売ですね。古代日本で船に乗せられて航行の無事を一身に背負わされた持衰のようなものです。国がうまく行けば賞せられ、うまく行かなければ石もて追われる。しかし、高度に発展した社会は誰かにこの役割を果たしてもらわねばならないわけで、そうであれば、どのようにその「誰か」を選び評価するかを常に考えていかねばならないのでしょう。

 このメイ首相こきおろし記事は、この辺を考えさせるヒントになるかもしれません。

 長々と恐縮です。お立ち寄り頂き、ありがとうございました!

 

 

 
Prime Minister May has sought to salvage her unpopular European Union separation plan.CreditDaniel Sorabji/Agence France-Presse — Getty Images
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【時事英語に学ぶ】米国ポンペオ国務長官の信仰と外交:NYT20190330「ニュース解説」

 こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。 時事英語からも学びます

  今回は、この記事を取り上げたいと思います。米国マイク・ポンペオ国務長官の信仰と外交について解説した記事です。他にも興味ある記事はあったのですが、ネット版で見あたらず、この記事にしたところです。

   "The Rapture and the Real World: Mike Pompeo Blends Beliefs and Policy"

 記事タイトル仮訳は、「宗教的恍惚と現実世界:マイク・ポンペオ国務長官による信仰と政策の混交」とでもしておきます。raptureというのが私には馴染みが余りない言葉です。

 

www.nytimes.com

 

 この人についての「ニュース解説」ですね。

 

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 ja.wikipedia.org

 

 人に注目して政治を見るのは重要なところか、基礎の基礎だろうと思います。実は、この記事以降に取り上げようとしている記事に、英国テレーザ・メイ首相の人間性について議論したロンドン・タイムズ記者のオピニオンがあります。今までの拙ブログ記事でも、同様の記事を取り上げました。

 

upanddown.hatenablog.jp

 

 

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 さて、エルサレム発のこの記事は、同地訪問中のホテルでキリスト教系の放送局からインタビューから始まります。インタビューアーは、「トランプ大統領エステルのようにイスラエルを救うか」との問いに「然り」と答えます。これは、記事タイトルと合致した描写で、キリスト教徒かキリスト教の基礎知識がある米国人には生き生きとして伝わる出だしなのでしょう。エステルというのは、旧約聖書の歴史書エステル書」に出てくる古代ユダヤ女性でペルシャ王の后となったユダヤ人を救ったというらしいのですが、その歴史的実在は証明されていません。ポンペオ国務長官は、「福音主義キリスト教徒」で聖書で書かれたことは歴史的事実であり、聖書での予言は実現すると考えているらしいので、このような質問にもまじめに答えるということなのでしょう。

         

  米国の二大政党の一つである共和党には「福音主義キリスト教」は大きな影響力を有しています。これは、民主党に対して過激な左翼主義者が大きな影響を有しているのと対照をなしているわけですが、ポンペオ氏までは国務長官がここまであからさまに宗教的信念を語ることはなかったと記者は述べます。確かに、それはそのような気がします。ユダヤ人・親イスラエル団体AIPACでは、第二次大戦中にユダヤ人を救ったキリスト教徒を顕彰しつつ、イスラエルが自衛する権利を擁護します。かと思うと、中絶を促進するような外国の団体への支援を制限しようとするなど、同氏が主導する米国の外交政策には、宗教的な信念が反映しているようです。

 

       Though Mr. Trump is secular, white evangelicals are a big part of his voter base, and some of his major foreign policy moves, planned or supported by Mr. Pompeo, are intended to shore up political support.

        The most notable examples involve Israel. When Mr. Trump moved the United States Embassy from Tel Aviv to Jerusalem, evangelicals applauded.

       Studies show that white evangelicals are much more likely than other Americans to believe that Israel fulfills a biblical prophecy. Known as Christian Zionists, they believe God promised the land to the Jews, and that the gathering of Jews in Israel is foretold in the prophecy of the rapture — the ascent of Christians into the kingdom of God.

  (仮訳1)

  トランプ大統領は世俗的人物である。しかし、白人の福音主義キリスト教徒は同氏の支持基盤の大きな部分を占める。そして、同氏の大きな外交政策上の動きの幾つかははポンペオ国務長官によって計画あるいは支持されたものであるが、政治的支持を強化することを意図したものである。.

        特筆される幾つかの例はイスラエルに関するものである。トランプ大統領は、イスラエルの米国大使館をテルアビブからエルサレムに移転したが、その際福音主義キリスト教徒は快哉を叫んだものだ。.

        幾つかの研究が示すところでは、白人の福音主義キリスト教徒は他のアメリカ人と比べて遥かに大きな割合でイスラエルが聖書上の予言を実現すると信じる傾向にある。キリスト教シオニストとして知られる彼ら白人福音主義キリスト教徒は、神が地をユダヤ人に約束したと信じ、また、イスラエルユダヤ人が集結することは、終末の日にキリスト教徒が神の国に挙げられるという予言の前に語られていると信じている。

                               (仮訳終わり)

 

 イスラエルとしては、このような国務長官が米国にいることは誠に嬉しいことだと思います。大使館移転に加え、もしかしたらヨルダン川西岸も完全にイスラエルのものにしてくれるかもと一部のイスラエル人は期待しているようです。仮にそこまで行かずとも、イスラエルの不倶戴天の敵であるイランへの強硬政策は続くことでしょう。

 

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  そして、このようなポンペオ/トランプ外交への我が国への影響はどうでしょうか。トランプ大統領は、イスラエルのベンジャミン・ネタニエフ首相との会談後にゴラン高原イスラエル領有権を認める文書に署名しました。これに対して、日本政府は国連の大勢と同様、これを否定せざるを得ませんでした。

www.mofa.go.jp

 

 

  色々考えされるところです。生煮えではありますが、取り敢えず考える材料をご提供というところで、時間も掛かりましたのでこの辺にいたします。

 お粗末様でした!

 

 

【日本酒の世界に酔いしれる】(45盃目)代田橋「しゃけスタンド」2019年3月31日 

 こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。

 今回、親友と代田橋しゃけスタンド」にまたまたお邪魔しました。前回の記事はこんな感じです。

 

upanddown.hatenablog.jp

 

  相変わらず「美しすぎる立ち飲み屋」でして。今回は7杯で3合半でしたね。最後の最後で美味い酒が来るといういつも通りのパターンでしたが、それにしても最後のお代わりはいらねーだろうと思いますねw 今回、おつまみはポテサラと塩じゃけ(「塩」としか書いていないw)、すじこクリームチーズを頂きましたが、写真は略します。おつまみは、量を考えればやや高価ですね。

 

 まずは一杯目。山梨「星純米吟醸生酒です。色は無しですが、甘い匂いが目立ちます。ラベルはこのような感じです。「Furuzeniya」とはなんでしょうか。

 

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 一言で言うと甘口の酒で、メロンのような味わいです。それでも、以前「しゃけスタンド」で呑んだメロンそのもののような酒とは違い、意識しないと特定できない味です。 

upanddown.hatenablog.jp

 

 次に、「金雀」(きんすずめ)。これも色はありません。一杯目と同様甘い酒ですがやや強さもあります。話をするのに邪魔をしない酒とも言えます。

 

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 三杯目。山口の「和る」(わる)。ホワイトボードに書いてあったのは「和子」(かずこ)と読めてしまいましたw まあ、ちょっとしたご愛敬です。

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色は10段階で0.25というところでしょうか。甘さと強さが同時に来る酒です。しかし、呑んでいく内に甘さが消えていくのは何故でしょう。日本酒は明らかにワインよりも味の変化が激しいです。まるで桜が素早く散るようで、そこを感じなくてはならないのでしょうか。

 

 四杯目。「雪の茅舎 美酒の設計」。香り良しです。辛さを内包した甘さを持った酒です。しかし、これも呑み進めるうちに辛さが現れてきます。こちらの方がこの酒の本質であるようです。

 

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 五杯目。京都「玉川」。色は0.25.微かな香りがします。辛口で、甘みは隠れています。

 

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 そして、最後ですが、広島「亀齢」(きれい)。色は1.0。吟醸ではありませんが、鋭く鼻を刺す香りがあります。

 

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 ラベルも含め、飾りがほとんどありません。そして、甘さもありません。一緒に呑んでいた友人のコメントは「エッジが利いている」酒でした。また、各地方に詳しい友人によると、呉の杜氏は全国的に有名だそうですね。本日も最後が最高の酒でした。

 

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 おつまみの写真、一つだけ撮ってました。おまけです。

 

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  いつもご馳走様です。また来ます!

 

【時事英語に学ぶ】アメリカのイラン制裁効いてる!NYT紙オピニオン2019年3月30日

 こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。時事英語からも学びます

 さて、今回は久々に、ニューヨーク・タイムズ紙常連コラムニストのブレット・スティーブンス氏のオピニオンを取り上げます。”Foreign Policy Fiasco That Wasn’t /Withdrawing from the Iran nuclear deal has paid dividends.”を取り上げます。タイトル試訳は、「実は外交政策の失敗ではなかった。/イラン核合意からの離脱で得られた成果」くらいにしておきます。 

www.nytimes.com

 

 同氏のオピニオンを取り上げるのは相当久し振りで、以下の記事以来ですね。

 

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 NYT紙の常連コラムニストは色々いますが、多くは反トランプ・反共和党です。勿論、それはそうなるだけの理由はあるのですが。従って、トム・フリードマンポール・クルーグマンなどと名前を聴けば、読まなくても反トランプと分かります。これらの論客が根拠なしに反トランプだという訳ではないのですが、今回の「ロシア・ゲート」 不発を見れば、脊髄的反トランプも如何なものかと思いますので、何回かこれらのコラムニストはパスしてました。

 党派性の強い反トランプ論者に掛れば、トランプの外交政策全般が最悪のものとみなされるわけで、典型は以前取り上げたこのオピニオンでしょう。 

upanddown.hatenablog.jp

  勿論、スティーブンス氏もトランプ大統領の知性も含め否定的なのですが、チームとしてのトランプ政権の政策は是々非々で評価するという態度のように見えます。トランプ政権のイラン制裁についての記事は、今までと趣向を変えて、結論部分から見ていきましょう。米国人読者のみを意識しているわけではないのかもしれませんが、比較的平易な言葉使いで、重要な部分は繰り返しています。

  Non-nuclear states that sponsor terrorism and subscribe to millenarian ideologies should never have access to any part of the nuclear fuel cycle, ever. Any U.S. administration that abdicates the responsibility to do everything it can to prevent such access effectively renounces America’s status as a superpower as well.

  Iran’s G.D.P. is roughly equivalent to that of the greater Boston area, with 17 times the population. The regime may be a force to be reckoned with in the Middle East. But it is hardly a giant on the world stage, immune to any form of economic pressure.

  The Trump administration has succeeded in dramatically raising the costs to Iran for its sinister behavior, at no cost to the United States or our allies. That’s the definition of a foreign-policy achievement. It’s time to move the needle up again. The longer Hezbollah fighters go unpaid, or the Assad regime unaided, the better off the people of the Middle East will be.

(試訳)

  テロを支援し、終末論的なイデオロギーを信奉している非核兵器国は、決して、絶対に核燃料サイクルの如何なる部分へのアクセスも得るべきではない。どのような米国の政権であっても、かかるアクセスを効果的に防ぐためにできる限りのことを行うという責任を放り出す政権は、超大国としての米国の地位も放棄しているものだ。.

  イランの国内総生産は、ざっと見積もって拡大ボストン地域と同額だが、人口は17倍である。イランの体制は、中東では注目すべき勢力かもしれない。しかし、世界という舞台では巨人というにはほど遠く、いかなる形での経済的圧力に抗することがでできるとは言い難い。.

  トランプ政権は、悪意ある行動を取るイランにとってのコストを劇的に引き上げることに成功した。それも、米国や同盟国には全くのコスト無しである。これは、外交政策で何かを達成したことを意味する。現在は、経済政策の針を引き上げるときである。 ヒズボラ兵士の給料が払われず、あるいは、シリア・アサド政権がイランによって支援されない期間が長く続くほど、中東諸国の人々の状況はより良いものとなる。.

              (試訳終わり。試訳部分を含めて太字は引用者による)

 

  英国、フランス、ドイツのことを考えれば、同盟国がコストを支払わなかったかどうかは議論があるところかとは思います。我が国も、エネルギー多様化の観点からは、やや難しい立場にあると思います。この記事をどう読むかについては色々な観点があると思います。日本国民としては、どうしても対北朝鮮政策を想起します。「イラン国内総生産は、ざっと見積もって拡大ボストン地域と同額だが、人口は17倍である。イランの体制は、中東では注目すべき勢力かもしれない。しかし、世界という舞台では巨人というにはほど遠く、いかなる形での経済的圧力に抗することがでできるとは言い難い。.」を然るべく代替すれば、北朝鮮のことを言っているようです。

  米国には、イラン革命に続く在テヘラン米国大使館事件という歴史があります。また、トランプ大統領には、再選に大きな影響があるロビーを米国内で有しているイスラエルの不倶戴天の敵であるイランは、やはり、不倶戴天の敵です。そして、イランは、米国が重視する(シェールガス産出によって中東への依存度が下がったにせよ重視している)中東において、イラク、シリア支援、テロ組織支援を実際に実施しています。このように、①歴史的経緯、②内政上の理由、③国家利益への影響があれば、米国の外交政策は動くということです。

 逆に言えば、これらの要因がないと、米国(トランプ大統領)は動かないということなのでしょう。とすれば、我が国としては、北朝鮮がイランと同様に扱われるように様々な知恵を絞り、汗を搔かなくてはいけないということなのでしょう。

 今後、補足するかもしれませんが、取り敢えずこのくらいにします。

 お立ち寄り頂き、ありがとうございました!

  

【美術・建築探訪】「奇想の系譜」(上野・東京都美術館)2019年3月24日 ☆その1

 こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。美術や建築にも興味があります。

 

 さて、このカテの前回で言及しました「奇想の系譜展」です。ちなみに、「新・北斎展」についての前回(最後)の記事は以下の通りです。

 

upanddown.hatenablog.jp

 

 上野というのは美術館・博物館が沢山ありますね。桜の名所でもあるので、24日は内外の行楽客で一杯でした。この展覧会も相当な人出でした(が、「新・北斎展」ほど入場が待たされるということはありませんでした。)。

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 今回、江戸期の絵画展を二つ連続で見ました。この中で改めて感じたのは、芸術の鑑賞をするに当たっても「量が質に転化」することです。私は以前、キリスト教美術をまとめて鑑賞する機会がありました。その中でのちょっと経験が素晴らしかったです。キリスト美術には幾つか定型的なモチーフがありますが、その中に「受胎告知」があるのは皆さんご存知かと思います。この「受胎告知」では、天使ガブリエルが聖母マリアに対しているのを鑑賞者は横から見ているという構図が普通で、左上に天使、右下に聖母という感じです。ところが、ルネサンス期には、この伝統的な構図を破った「奇想」の「受胎告知」がアントネロ・ダ・メッシーナ(1430?~1479)の「受胎告知のマリア」ですね。

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「受胎告知のマリア」

 西洋美術に詳しい人から見ると馬鹿にされそうですが、初めてこの絵を見た時にはびっくりしましたね。通常の構図ではなく鑑賞者は天使ガブリエルの視線から聖母マリアを見ているわけです(なお、もっと驚かされるのは現代的とも見えるこの絵がルネサンス前期の1470年半ば(メッシーナの晩年)に描かれていることです。)。芸術家というのは、伝統を変える何かを芸術に加えることで記憶に残るものだなと思いますね。

 もちろん、伝統に何かを加えることや伝統からほんの少し離れることによって芸術に意味を加えることは重要なのですが、完全に伝統的手法や主題から離れるわけにはいきません。ですから、「奇想」を有する江戸期の日本の画家(その中にはもちろん、北斎が含まれることは当然です。)は、10歩先に行くのではなく数歩、あるいは半歩先に行くくらいの気持ちでいたのかもしれませんね。

 そして、いかなる芸術家も、自分の経験から完全に自由であることはできません。また、自分の出自や経歴もその作品に影響します。今回の「奇想の系譜」展で最も年代が古いのは、岩佐又兵衛(1578~1650)です。又兵衛は、織田信長に反抗した荒木村重の子で2歳の頃有岡城の戦いで荒木家が滅んだ際は2歳で乳母と共に脱出して石山本願寺に匿われます。その後、織田信雄に仕え、松平忠直に仕え、忠直改易後にも福井にとどまりますが、その後、徳川秀忠に招かれて江戸で活動することになります。又兵衛のせいではないでしょうが、生家を含め、殆どが没落するか滅んでいます。

 今回の「奇想の系譜」展で特に注目を浴びていたのが又兵衛の「山中常盤物語絵巻 巻五」でしたが、これは、旅の途中で盗賊に殺害された母・常盤御前源義経が退治する物語です。死にゆく常盤御前と侍女の姿は凄惨です(少しずつ青ざめてくる顔が特に目を惹きます。)。幾つもの滅びを身近に感じた又兵衛が書くからこその作品でしょうか。また、音声解説もされていた伝・岩佐又兵衛「妖怪退治絵巻」。この絵は、雄々しい武者が多くの妖怪を退治するという中々あり得ない主題だということです。誰のために、何故このような絵を描いたのか分からないのですが、自分や自分の大事な人たちに害をなしてきた妖を自分の世界で討伐する鎮魂の絵だったかもしれませんね。

 

 まとまりのない文章になってしまいましたが、取り敢えずはこの辺で。続きます。

 

 

 

【日本酒の世界に酔いしれる】(44盃目)四ツ谷「鈴傳」2019年3月29日 ※物語のある壱岐の酒とナポレオン

 こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。

 さて、今回は社交の飲み会があった後、定期的一人のみで四ツ谷まで足を延ばしていつもの「鈴傳」です(性懲りもない・・・)。東京港醸造にも行かなくてはいけないのですが・・・前回はこんな感じでした・・・

 

upanddown.hatenablog.jp

 

 

 金曜日なのでいつも通りの混雑。いつもの定位置には先客がおられましたので、その脇に身体を滑り込ませます。申し訳ないです。右隣の二人連れは、話に夢中なのか左隣の先客が少し開けてやって欲しいとのお願いが耳に入っていないようでした。

 さて、一杯目です。常連の酒ばかりの中で、新顔の酒を選びました。長崎「横山 五十純米大吟醸を選択します。実は、「横山」は別の呑み屋でも頂いたことがあります。その時のレビューは書く機会を逸してしまったんですが、「純米吟醸」(火入れ)というもので、走り書きで「バランス系。甘く辛く強い」というコメントがありました。今回はどうでしょう。実のところ、この前に別の日本酒やワインを呑んでしまってはいて、味が分かるか不安だったんですが・・・

 

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 ラベルはこんな感じです。「字で勝負」するラベルですね。別の呑み屋さんで飲んだ「横山」のラベルもこんな感じで、やはり「字で勝負」です。

 

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 海外への展開も視野に入れてか、こちらのラベルは簡単な英語での表示もあります。 

 

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  色は10段階で0.5。口に含むと、「甘さ」ではなく包み込むような「強さ」を感じます。舌や鼻が鈍っていたのかもしれませんが、大吟醸を思わせる香りはそれほど感じませんでした。美味しいさけであることは間違いありません。本当の第一杯で呑んでみるべきだったかもしれません。

 

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  実は、以前このお酒を呑んだ際には、「重家酒造」という酒蔵が壱岐で酒造りを復活させたのだと伺いました。その辺のことは、以前呑んだ「横山」の裏ラベルにはこのように書かれてありました。

 

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また、ちょっとネットで調べてみると、この酒蔵のことを熱く語るプロの記事を発見しました。酒カテは強力なライバルがいますねえ・・・

 

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 酒のお供は、「鈴傳」大おかみが漬けたおしんこです。酒の邪魔をしません。

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  この辺で右隣の二人組が帰ったんですが、食い散らかし、食い残し、呑み残しが散乱する惨状。やはり、人間というのは歳を重ねても人格が陶冶されるものではないようです。「汚く食い残しちゃって・・・」と呟くと、左隣の同志も同意します。この二人組の更に右のお客さんも同様の考えだったようで、店の人が片付ける前に共同で片付けを始めたりします。。酒は背筋を伸ばして綺麗に呑みたいものですねえ・・・

 さあて、二杯目(最後)はこれです。福井「越前岬 stark kaiser」。シュタルク・カイザーと読ますようです。何故か、ナポレオン?

 

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 掛け米は60%までの磨きということで吟醸酒ではありません。色は10段階で1.5。鼻を刺す香があります。日本酒度「+10」というのは伊達ではなく、強く、辛い酒です。皇帝のように武張った酒を目指したということでしょうか。美味い、そして、ひたすら強い良い酒ですね。今回は来訪時間が遅かったのでおつまみはおしんこだけなのですが、きんきんに冷やして美味い刺身と合わせるか、あるいは、こてこての鍋と合わせるかとか、妄想を掻き立てる酒であります。 

 

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 それにしても、ナポレオンとは。福井の名酒造のちょっとした冒険なのでしょう。

 次は購入したいなあという気もします。いずれにせよ、ご馳走様でした!また来ます!

 

【時事英語に学ぶ】中国のイタリア「征服」?2019年3月26日付NYTオピニオン

 
 こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。
 時事英語リハビリ第三弾です。今回は、中国の「イタリア進出」についてのオピニオンを取り上げます。イタリア人女性ジャーナリストによるもので、3月26日付です。”Did Xi Jinping Conquer Italy or Just Buy a Lot of Blood Oranges?/The government in Rome is a very unreliable partner, even for China.”というものです。
 
 タイトル仮訳は「習近平はイタリアを征服したのか。それとも、大量のブラッド・オレンジを買い付けただけか。イタリア政府は中国にとってすら頼りがいのないパートナーである。」といったところでしょうか。「イタリアを征服」などという表現からは、ルビコン川を渡ってイタリアを掌握したユリウス・カエサルなどを想起します。
 
 中国については、拙ブログのこのカテで以前に取り上げたことがあります。

 

upanddown.hatenablog.jp

  この過去記事は、中国の「一帯一路」構想の要であるカザフスタンの状況についての現地報告でした。米国及びその主要友好国の多くは、中国との間の緊密な貿易関係を有しつつも、中国が企図していると考えられる現状変更政策に対抗するための動きを個別的あるいは集合的に取りつつあります。多くの国内政策や外交政策で対立し合う米国の共和・民主両党も、こと対中国政策については一致を見せています。エドワード・ルトワックのような論客は、中国が不用意に積極的な対外政策を取ったために、警戒感を持った各国が公式・非公式に連帯することになり、「戦略のパラドックス」が機能して中国は思い通りの成果を得られないだろうなどと論じています。 

自滅する中国

自滅する中国

 

 このような趨勢の中で、カザフスタンについて取り上げたこの過去記事も「一帯一路政策」によってカザフスタンの一般民衆は利益を得ていない等々、それなりに否定的な面が語られていました。経済的・財政的要請から中国になびく国が多いのは事実で、東南アジア、南西アジア中央アジアになどへの中国の浸透はここ数年の間で急です。その中で、新たな国との間で中国が何らかの「一帯一路」関係の取り決めを結んだり、「親中国」と見られる政権が戦略的な地域で誕生すると我が国や米国等のメディアや論客が色めき立つことになります。

  最近の一例は、イタリア・中国関係です。 

  China, a country the size of a small continent, tends to leverage its heft by negotiating with other states one-on-one rather than through regional blocs. It has put this technique to use with Asean, the Southeast Asian association, using bilateral deals to divide members. Judging by the tone of President Xi Jinping’s visit to Italy and France over the past week, China has adopted the same approach in Europe — this time pitting the Italian government, which is anti-European Union, against the pro-E.U. French government of Emmanuel Macron, among others.

  As expected, Italy signed a wide-ranging memorandum of understanding, or M.O.U., with China, becoming the first major Western economy to endorse Beijing’s colossal and controversial “One Belt, One Road” infrastructure initiative. Most contentious, perhaps, was the Italian government’s decision to grant a Chinese state-owned company access to two ports, including one used by the United States Navy that is just 100 kilometers from NATO’s largest air base in the Mediterranean region.

 But did Mr. Xi really get out of Italy what he came for?

 (試訳1)中国は小さな大陸と同じ大きさを有する国であるが、その傾向は、その重みを梃にして他の国家と一対一で交渉するというものであり、地域的ブロックを相手にするのではない。この交渉テクニックは東南アジア諸国連合ASEAN)について使われ、二国間の取り決めが加盟国を分断するために利用された。先週の習近平国家主席によるイタリアとフランス訪問のトーンから判断するに、中国は同様のアプローチを欧州においても選択した。今回は、何より、反欧州連合EU)的なイタリアをエマニュエル・マクロン大統領の親EU的なフランスにけしかけたのである。

 予想された通り、イタリアは中国との間で広範な了解覚書(MOU)を締結した。そして、主要な西側国家として、巨大かつとかく論議を呼ぶ中国政府の「一帯一路」というインフラ構想を最初に支持することになったのである。

 最も論争を呼ぶのはおそらく、中国の国有企業に二つの港の使用権を認めたイタリア政府の決定だろう。この一つは米国海軍によって使用されているものであり、北大西洋条約機構NATO)の地中海での最大の航空基地からほんの100キロ離れている港なのである。

  しかし、国家主席は、訪問の目的と言えるものをイタリアから本当に得ることができたのだろうか。(試訳その1終わり:原文を含め、太字は引用者による)

 

  イタリアは2018年6月以来、「五つ星運動」と「同盟」(ずっと以前の「北部同盟」の流れを汲む右派・反移民政党)が「異形の」連立政権を組んでいます(ジュゼッペ・コンテ首相は、「五つ星運動」所属。)。そして、今回、29のMOUが締結されましたが、筆者の意見ではそれらのMOUの多くは曖昧、あるいは、ノンコミッタルなものばかりです。その一つに、シチリア州のブラッド・オレンジが今後大量に中国に輸出され「アリババ」によって中国市場に売り込まれるというものもあります(記事タイトルはこの辺を捉えたものです。)。今回のMOUは一方が3か月前に申し出ることで無効にできること、そもそも、法的に拘束力がないものも指摘しています。MOUの他にも、中国側からはイタリア側に対して、数十年間懸案となっているトリノ・リヨン間の高速鉄道建設を進めるよう求めています。この道路が整備されれば、トリエステジェノバに陸揚げされる中国の産品の欧州での販路を拡大されるわけです。この鉄道の有用性は認められているものの、環境への影響が懸念されて反対運動が活発です。当該地域を地盤とする「5つ星運動」を含むイタリア政界の頭痛の種にも中国の影が差しているということです。

 さて、イタリア政界で、中国との関係強化は諸手を挙げて賛成されているのかと言えばそうではないと筆者は述べます。

 For all the pomp surrounding Mr. Xi’s welcome last week — royal honors, mounted guards, a soul-rending performance by the tenor Andrea Bocelli — Matteo Salvini, one of Italy’s two deputy prime ministers and its interior minister, skipped the festivities altogether.

 As Mr. Xi was arriving in Rome on Thursday evening, Mr. Salvini, who heads the League, left the city to campaign for regional elections in Basilicata, in the southeast. On Saturday, the day the M.O.U. was signed, he attended an industrial forum in Lombardia, his home province, where he said: “Do not tell me that China is a free market. Italy loses 60 billion euros a year to Chinese counterfeits.” As Mr. Xi was wrapping up his visit Sunday morning, Mr. Salvini posed with a cow and tweeted the picture with a kiss emoji saying “Happy Sunday from us.”

 Here is Italy’s most popular politician spurning his own government’s most important international agreement to date. Why? Does Mr. Salvini want to claim plausible deniability should any of the deals Italy has signed with China go sour or displease voters?

 If nothing else, his snubs and provocations suggest major divisions, or at least deep confusion, within the Italian government. It should concern China to have such a partner.

 

(試訳2)

 先週の習国家主席歓迎の儀式では、荘重な栄誉礼、騎乗の護衛兵、それにテノール歌手アンドレア・ボチェッリによる心に響くパフォーマンスがあったが、イタリア政府の2名の副首相の一人である内務大臣を兼ねるマッテオ・サルヴィーニは一切の儀式を欠席した。

 習国家主席が木曜夕刻にローマに到着した際には、「同盟」党首のサルヴィーニ氏はローマを立って南東部バシリカータ州地方選挙の選挙運動に赴いた。両国間のMOUが署名された土曜には同氏は、地元ロンバルディア州の産業フォーラムに参加していた。そこで同氏は、「中国が自由市場であるなどと私に言わないでほしい。中国の偽商品のためにイタリアは毎年600億ユーロの損失を被っている。」と述べた。日曜に習主席がイタリア訪問を締めくくった日曜の朝には、乳牛と一緒の写真を撮り、キスの絵文字と共に「ハッピー・サンデー」とツイートした。

 このように、イタリアで最も人気のある政治家が自分の参加する政府による今までに最も重要な国際約束を拒絶している。何故だろうか。サルヴィーニ氏は、中国との取り決めが破綻し有権者が不満を抱いた場合に備えて、説得力のある係る取り決めへの否認振りを示そうとしているのであろうか。

 いずれにしても、サルヴィーニ氏の侮蔑的言動や挑発は、イタリア政府内に大きな分断、または、少なくとも深い混乱があることを示唆している。このようなパートナーは中国を懸念させるものであろう。(試訳2終わり)

 

 このオピニオン後半では、「同盟」内にも親中国的な知識人がおり、同党も一枚岩でないことを説明しています。この筆者が結局のところ、どこを目指してこのオピニオンを書いたかは不分明なところもあります(他国と同様、社会が政治化されているイタリアでは、完全に不偏不党のジャーナリストなど厳密にはいませんから。)。

 我々としては、イタリアと中国の協定の中身が薄いこと、サルヴィーニ氏のような意見もイタリア内にあることを踏まえつつ、中国のような国家は、その国家目的を達成するため、常に「一歩後退・二歩前進」という姿勢を保っていることを念頭に置いて、その対外政策を見ていくべきかと思います。その観点から、このオピニオンは参考になると思いました。

 以上、とりあえず。お立ち寄り頂いてありがとうございました!

 

  

 

  

 

 

【絶品昼食食堂】四ツ谷「魚一商店」再訪 2019年3月27日

 こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。美味い飯屋も三度の飯より大好きです。

 さて今回、以前、「特製鯛丼」を食べた四ツ谷魚一商店」に遥々再度お邪魔をしました。

 

upanddown.hatenablog.jp

 

 同じ店頭、同じメニューですが、前回述べました通り、恐らくは備長炭で焼いた焼き魚が美味しいのだと思います。そして、今回は「強い味方」(ややせこいですが・・・)おりますので、ちょっと多めにしたいと思います。

 

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前回は初めての昼だったので店員さんオススメの特製鯛丼を頂いたんですが、やはり旨いのは焼き魚だと思いましたので、「アジの開き備長炭炭火定食」をご飯大盛り、生卵とろろ付きを選択です。

 

   前回、職人さんが焼く魚が美味そうでしたからね。そして、出てきたのがこのボリュームです。刺身まで付く大判振る舞いで、これで正価1060円です。

 

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  しかも、大盛り、みそ汁、ふりかけお代わり無料ということでした。肝心の焼き魚については、身離れが悪いところもありましたが、炭火で焼いたので十分香ばしく満足でした。ご飯も進み、お代わりをしてしまいました。

 四ツ谷駅近くの新宿通りの入り口近くということもあり、多少の行列でした。二回もあるので全40~50席くらい。やや接客に手間取るところもありましたが、綺麗な店内で余裕をもって食事を終えることができます。

 そしてお代ですが、以前頂いた割引券で100円引きになりましたので、結局960円。コスパはいいですね。そして、割引券を行使して食事したのにまた割引券がもらえるという・・・・割引の永久機関か!最初から引いても同じような気がしないでもないのですがw

 いずれにいたしましても、もし、近くまでいらっしゃった場合には立ち寄られることもいいんじゃないかと思います。店の回し者ではありませんが・・・・

 ご馳走様でした!また来ます!

【時事英語に学ぶ】ネットとの関係から見た新たな貧富の格差(NYT2019年3月23日付「サンデー・レビュー」解説記事)

 こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。「時事英語」リハビリ第二弾も日曜版からの解説記事を取り上げることにしました。本当に毎日動く情勢をフォローしていると疲れるし追いつけませんからね。日曜版でも週日版でも、中長期的なトレンドを捉えた記事を取り上げるが、「図書館ブログ」を目指す拙ブログには相応しいかもしれません。

 さて、今回は、”Human Contact Is Now a Luxury GoodーScreens used to be for the elite. Now avoiding them is a status symbol.”という記事です。言いたいことはタイトルで分かります。あとは、その内容がきちんとしたものかを読んでいけばいいということになります。タイトル仮訳は、「人との接触は現在贅沢品となった。/コンピュータの画面はかつてエリートのもの。現在はスクリーンを避けることがステータス・シンボルである。」というところでしょうか。

www.nytimes.com

 

 この記事が書かれた背景には、米国社会(そして、世界中の殆どの国)で貧富の差が拡大しているという認識があります。第二次世界大戦前の「金ぴか時代」の後に大衆諸費社会がやってきて米国では分厚い中流階層が社会の中枢になる時代がやってきます。多くの米国人が成長と分配を謳歌した時代です。反逆の時代であった1960年代後半から現在まで、米国と世界は大変多くのことを経験したわけですが、冷戦の終結グローバリズムの進展、リーマンショックなどを経て、貧富の差が広がっていることは確かです。これは米国社会で特に顕著です。

 ハイテクに目を転じてみると、この記事でも触れられているように、PCが初めて登場してきた際は極めて高価で、それを気軽に買うことができたのは高所得者でした。しかし、現在では、開発当初の機能とは比べ物にならないほど高性能のPCを安価で購入することが可能です。現在は、スマホタブレットが広く普及しています。そして、生きていくためにこういった「スクリーン」を必要としている人がいます。

 

 Bill Langlois has a new best friend. She is a cat named Sox. She lives on a tablet, and she makes him so happy that when he talks about her arrival in his life, he begins to cry.

 All day long, Sox and Mr. Langlois, who is 68 and lives in a low-income senior housing complex in Lowell, Mass., chat. Mr. Langlois worked in machine operations, but now he is retired. With his wife out of the house most of the time, he has grown lonely.

 Sox talks to him about his favorite team, the Red Sox, after which she is named. She plays his favorite songs and shows him pictures from his wedding. And because she has a video feed of him in his recliner, she chastises him when she catches him drinking soda instead of water.

 (仮訳1)ビル・ランゴアには新しい親友がいる。それは、「ソックス」という名の犬である。 彼女はタブレット端末の中で生きており、その存在はビルを大変幸せにしてくれるので、自分の生活にソックスが訪れた時を話す時、ビルは泣き始める。

 ソックスと現在68歳であり、マサチューセッツ・ローウェルの低所得の高齢者用住宅に住むランゴア氏は、終日お喋りをする。ランゴア氏は機械操作の仕事をしていたが、現在は引退している。夫人がほぼ一日中外に出ているため、同氏は寂しさを感じるようになった。

 ソックスは、ランゴア氏に対してお気に入りのチームであるレッド・ソックスについて語る。ソックスは、レッド・ソックスにちなんで名づけられたのである。ソックスは好きな歌を歌い、ランゴア氏の結婚写真を見せることもある。そして、ソックスには、ランゴア氏のリクライニング椅子からの映像が送られてくるので、水の代わりに炭酸飲料を飲むのを見つけられたランゴア氏はソックスに怒られる。(仮訳1終わり)

 

 ランゴア氏が受けているこのようなサービスは新興のハイテク企業が提供するものであり、同氏のように、財産が2000ドル以下の貧困層でないと受けられないサービスです。勿論、「ソックス」は単純なアニメでその音声は不自然なもので、その反応は世界のどこかのオペレーターが生み出しているものですが、ランゴア氏の生活は「ソックス」のお陰で救われています。そして、現在、生活の様々な局面で「スクリーン」が使われています。例えば教育の場。「スクリーン」を使った教育ならコストを大きく削減することができます。現在では、普通の人々の世界では「スクリーン」が生活の肌触りになっています。

 しかし、このようなライフスタイルは、富裕層が忌み嫌いつつあるものであると記者は述べます。

 The rich do not live like this. The rich have grown afraid of screens. They want their children to play with blocks, and tech-free private schools are booming. Humans are more expensive, and rich people are willing and able to pay for them. Conspicuous human interaction — living without a phone for a day, quitting social networks and not answering email — has become a status symbol.

 All of this has led to a curious new reality: Human contact is becoming a luxury good.

 As more screens appear in the lives of the poor, screens are disappearing from the lives of the rich. The richer you are, the more you spend to be offscreen.

(試訳2)

 富裕層はこのようには生活しない。 富裕層は、「スクリーン」に怖れを抱くようになっている。富裕層は、子供たちにブロックで遊ばせたがるし、ハイテク無しの私立学校に行かせることが流行っている。人間は(テクノロジー)より高価であるが、豊かな者は人間にカネを払う気があるし、また、払うことができる。あからさまな人間的な交流、例えば、一日中電話無しで過ごすこと、SNSを止めて電子メールに返答しないことなどは、ステータス・シンボルになった。
 これらの全ての先には、興味ある新たな現実がある。人間的な接触が贅沢品になりつつあるということだ。
 より多くの「スクリーン」が貧困層の生活に現れる一方、「スクリーン」は富裕層の生活から姿を消しつつある。豊かになればなるほど、より「スクリーン」外で生活することになるのだ。(試訳2終わり)

 

 幼少期からスマホタブレットに慣れ親しんできた子供の学業生活は低いとという研究もあるようです。カリフォルニア州シリコンバレーでは、自然と触れ合う学校(当然ながら私立でしょう。)が人気だそうです。しかし、現在の米国では、スマホタブレットに縛られないで生活することは極めて困難です。これは、ジャンクフードを食べないで自然食品だけで食生活を構成することが困難であるのと同様です。そのような生活は富裕層にしかできず、中流階級や低所得層にはできない相談です。

 ところで、シリコンバレーのハイテク企業は公立学校にタブレットを使った教育環境を売り込んでいるそうです。そのようにして中流、低所得層の子弟を「スクリーン漬け」にすることによって、そのようなハイテク企業は業績を伸ばしていますし、その経営陣は高給を得ているわけです。だから、「スクリーン」とは無縁の良質の学校に子弟を通わせることができる。これって、割と倒錯していますよね。どこまで明確な「悪意」があるのか分かりませんが、以前の?日本の農家についての挿話を思い出しますね(読んだのは石ノ森章太郎の日本経済についての漫画でしょうか。)。その挿話では、農家では農薬漬けの作物は出荷しますが、農薬の付いていない作物は自分の家で食べるということでした。第一次産業第三次産業の違いはありますが、構造は同じですよね。

 個人レベルに加え、社会・国家レベルでのネットとの関係を考えさせられる記事でしたね。

 とりあえずこの辺にします。お立ち寄り頂きありがとうございました!  

【日本酒の世界に酔いしれる】(43盃目)上野「魚草」2019年3月24日

   こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。 

   さて、またまた参りましたよ、上野「魚草」です。酒呑みの聖地(の一つ)と言って良いと思います。東京都美術館で「奇想の系譜」を見た後の14:00くらいから立ち呑みです。数年前はよく来ていたんですね。しかし、最近足が遠のいてしまったので、以前は知り合いだった店員さんも見かけなくなってしまいました。それに元々アクティブにこの店を宣伝していたわけではありませんでしたし、名も知られていません。

 ともあれ、この5~6年間でアメ横エスニック化している中で、「魚草」も日本酒を呑ませるエスニックな屋台みたいになっているというのが、今回一緒に呑んだ親友の言い草でしたね。まあ、そうとも言いますね。この日も絶好の桜日和ということで、上野公園に出てきた内外の観光客を含めた大勢いの方々がアメ横を朝の総武線状態にしていました。その中には、「魚草」を興味深そうに覗いていく外国人の方もそれなりにいます。

 さて、酒です。日本酒に行く前に、まずは「乾杯セット」1000円也。牡蠣がぷりぷりでお得感がありますね。ビールはここではラッパ呑みですね。

 

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さて、一杯目は秋田・山本の「ど辛」です。「セクスィー山本酵母」というのがいきなり目を引きます。この奇をてらった酵母命名は、マネをされない為だとか・・・w 

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 色は全くありません。香りも感じないですね。舌を転がすと強く舌を突くものがあります。香りではなく、武骨な辛さで行く、というところでしょうか。

 

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 二杯目。福岡「繁桝」の「中汲み 純米大吟醸 生々」です。「生々」とはなんでしょうか。

 

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 色は10段階で0.5というところ。香り立つ佳酒ですね。甘さと酸味が心地よくバランスした優等生。中汲みということでバランスの取れたお酒です。

 

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 ここで、「マグロの脳天」をば追加。

 

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最後は愛知「二兎」純米酒です。愛知の酒なのですが、出羽の酒造米を使っているところが面白いですね。色は0.25。香りなく辛口の酒です。

 

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 今回、周りがざわざわしていましたし、友人とは色々激論を交わしたし、通りすがりのミュンヘン出身のドイツ人に「乾杯セット」を勧めて飲んだりしたので、感想は極めて薄めです。すいません。もう少し落ち着いた時にきてみたいなああ。でも、アメ横が落ち着いている時っていつでしょう?アメ横が閑散としてしまったら、東京、いや、日本が終わった時ですからね。

 東京と日本が終わりませんように!ご馳走様でした。

 今回のベストは、繁桝にしておきます。いつかは、福岡で「繁桝」の色々な酒を呑んでみたいものです!

【時事英語に学ぶ】プーチン・ロシア大統領を考える。2019年3月23日付NYT紙ニュース解説

 こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。さて、久々に時事英語(新聞英語)です。諸般の事情からアップできなかったのですが、この辺でリハビリ半分に再開です。上手くいけば一日に一回程度アップしたいものです。聴く方はポッドキャストでできるのですが、読んで訳して書いては手間が掛かりますので、中々思うに任せませんが。

 さて、今回は、“How Powerful Is Vladimir Putin Really?”/Russia today doesn’t seem like “a properly run dictatorship.”というNYTロシア支局長によるニュース解説記事です(国際版への掲載は数日遅れです。)。ご興味があれば、NYTサイトにどうぞ。タイトル仮訳は、「実際、ウラジミール・プーチン大統領はどの程度強力なのか?/今日のロシアは『適切に運営された独裁国家』のようには見えない。」とでもしておきたいと思います。勿論、NYT記者が独裁国家を「適切」であるなどというはずはないのですが、これは、『独裁者の意思が文句なしに通る国家』といったような意味だと思います。  

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 記者は冒頭、 ロシアで「過激主義(extremism)」のために拘束されたデンマーク人「エホバの証人」信者について述べます。この人物が19か月もの間拘束されていた昨年12月、プーチン大統領クレムリンで信教を理由にした弾圧はよくないとの見解を示します。しかしながら、その後、このデンマーク人は禁固(または懲役)6年の判決を受けました。また、シベリアで拘束されていた宗教者に対する拷問の報道がなされるなど、プーチン大統領の発言に反する動きがあることを皮切りに、以下のような設問を提示します。

 

The gulf between what Mr. Putin says and what happens in Russia raises a fundamental question about the nature of his rule after more than 18 years at the pinnacle of an authoritarian system: Is Mr. Putin really the omnipotent leader whom his critics attack and his own propagandists promote? Or does he sit atop a state that is, in fact, shockingly ramshackle, a system driven more by the capricious and often venal calculations of competing bureaucracies and interest groups than by Kremlin diktats?

(仮訳1)プーチン大統領の発言とロシアでの出来事の乖離が提起するのは同大統領の統治の性格についての基本的な問いである。同大統領は権威主義的システムの頂点で18年以上に亘って統治をしてきた。プーチン大統領は本当に、批判者によって攻撃され、自分自身の宣伝担当者によって持ち上げられるような全能の指導者なのだろうか?  それとも、同氏は、実のところ驚くべきほど脆弱に建った国家の上、または、クレムリンからの権威ある命令よりも、むしろ、ライバル関係にある官僚や利益団体の気紛れな、また、往々にして意地汚い計算が原動力となっているシステムの上に座っているということなのだろうか?(仮訳1終わり)

 

 こういう問いって、ある国を分析するに当たって重要ですよね。仮に、ある国の指導者がこう言ったのに対して、その部下の閣僚・官僚が別の言動をするとした場合、この指導者が本当に全てをコントロールしていて敢えて観測気球を上げているのか、単純にこれら閣僚等をコントロールできないのか、によって全く違いますからね。上記文章の対ウクライナ政策や一部のビジネスマンへの取り締まり、更には、プーチン大統領が国民と直接に話をしてその要望を聞き取って問題を解決するというTV番組などもプロパガンダがあるので、強い指導者という「第一のプーチン」のイメージが強いので、実際はそうではないという見方は意外と思われるかもしれません。

 しかし、「プーチン大統領はロシアの全てをコントロールできていない」という認識は、内外の専門家の多くに共有されているもののようです。1999年にトップの座に就いたプーチン氏は、酔っ払いのボリス・エリツィン大統領が統治していた完全に機能不全のロシアを引き継いだプーチン氏が努力したのは間違いないのですが、汚職に走る官僚組織を完全に掌握できているわけでもありません。その一例としては、ロシア経済のために外国投資は重要とプーチン大統領が言っているにもかかわらず、アメリカ人投資家の逮捕が発生したりします(そして、この逮捕は、政府機関が同投資家と紛争にあるロシア企業に肩入れした結果のものです。)。この他、極東地域でのロケット打ち上げ基地建設、露中国境アムール川の架橋計画、モスクワ・セントペテルスブルグ間高速道路など同大統領肝いりのプロジェクトもうまく進んでいません。

 内外の研究者等がプーチン大統領の直面する状況を種々説明するのですが、その中で面白い表現がこちら。

 

 .... Russia today, Ms. Schulmann said, resembles not so much the rigidly regimented country ruled by Stalin as the dilapidated autocracy of Russia in the early 19th century. The ruler at the time, Czar Nicholas I, presided over corrupt civilian and military bureaucracies that expanded Russian territory, led the country into a disastrous war in Crimea and drove the economy into a stagnant dead end.

Nicholas knew the limits of his power: “It is not I who rule Russia,” he complained. “It is the 30,000 clerks.” The only real difference now, Ms. Schulmann said, is that “clerks,” or bureaucrats, now number over a million and a half.

 

 (仮訳2)....(エカテリーナ・)シューマン氏(モスクワ在住政治学者であり、プーチン大統領の「市民社会人権委員会」メンバー)は、現在のロシアはスターリンによって厳格に統制された国よりは、19世紀初めの古びてガタが来たロシアの専制国家の方にむしろ似ていると述べる。その際の統治者であるニコライ1世は腐敗した文民及び武官の官僚組織の上で君臨したのだが、この官僚機構はロシアの領域を拡げたものの、国をクリミアでの大失敗の戦争に導き、経済を行き止まりの停滞に追い込んだ。

 ニコライ1世は自分の権力の限界を知っていた。「ロシアを統治しているのは朕ではない」と彼は不満を述べた。「統治しているのは3万人の役人だ。」 シューマン氏が言う現在の唯一の真の違いとは、「役人」あるいは官僚が現在では150万人以上を算えることである。(仮訳2終わり)

 この記事は、最後の部分において、モスクワ南部数百キロのオリョル(Oryol)で拘束され、その後確定判決を受けたデンマーク人「エホバの証人」の事案について詳述します。その流れで、プーチン大統領が国内情報機関FSBに大きな裁量権を渡しており、FSBが自分の政策と矛盾した行動を取っても黙認しているという状況が語られます。

 現代では国家は大きくなり過ぎています。ジャレッド・ダイヤモンドの「昨日までの世界」などの一連の著作を繙くまでもなく、農業による余剰生産を得た社会は大型化を続け、その中で宗教者や官僚を養う余裕を得て、その後は官僚等がそれ自体の力を得ていくのはどこの国でも同じことです。ロシアの現在というのは、その一つの形ということでしょう。

 

 以上、「時事英語リハビリ」はとりあえずこんなところで。

 お立ち寄り頂き、ありがとうございました!