【時事英語に学ぶ】(その9)アメリカのチキンゲーム

 こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。

 

     相変わらず、メキシコ国境の壁問題を巡って連邦予算の一部が審議できないことを踏まえた米国政府閉鎖関連の2019年1月24日付NTY国際版記事です。リベラルのニューヨーク・タイムズ目線ではありますが、コメントを求める識者も民主・共和両党系で一応のバランスが取れています。

 

 ★記事全文は掲載しませんし、リンクも貼り付けません。ご興味のある方はNYTサイトから検索願います。

 

No progress on the wall --- or anything else/The monthlong impasse has all but frozen the rest of Trump’s policy agenda

(201901124 NYT International Edition P[White House Memo]by Peter Barker)

(タイトル試訳)「壁についての進展なし。その他の案件についても/一か月に亘る行き詰まりによって壁以外のトランプ大統領の政策課題が凍結

 

 「ホワイトハウス・メモ」という大統領府詰めの記者によるまとめ記事ですね。全般的に言えば、メキシコ国境の壁建設にトランプ大統領が拘ることによって、同大統領の他の政策課題の進展もゼロであることを描写しています。

 

     勿論、貿易に関する中国との交渉や核問題についての北朝鮮との折衝は進展してはいます。しかし、世界経済減速の懸念が広が中で、トランプ大統領ダボス会議への出席を取りやめざるを得ませんでした。また、65%と言われる政権幹部の交代率の中で代行が務めている国防、内務等の閣僚ポストの補充もできていません。超党派で合意できる可能性がある国内インフラ整備なども手を付けることができません。

 

 以下は、最初の2、3パラです。

 

For the past month, President Trump’s public schedule has mostly a sparse document. The one issued for Tuesday, for instance, listed only his daily intelligence briefing and lunch with vice president. No new policy announcements. No new cabinet appointments.

As the partial government shutdown enters its 33rd day, Democrats accuse Mr. Trump of hostage-taking tactics, but among the hostages has been his own presidency. Other than his single-minded pursuit of a border wall, Mr. Trump has been all but put on hold advancing the rest of his agenda. It has become, as one administration official put it, a one-issue White House.

(試訳1)

 この一か月、トランプ大統領の公式スケジュールは、大体においてがらがらの文書だった。例えば、今週火曜日(1月22日)発表のスケジュールでは、定例の情報ブリーフと(ペンス)副大統領との昼食のみだった。何の政策発表もなく、何の閣僚級の任命もなされない。

     部分的な政府閉鎖が33日目に入ろうとしている中、野党民主党大統領の人質戦略を批判する。しかし、人質になっているのは大統領自身の政策も同様である国境の壁を専心して追求する以外、トランプ氏はその他の政策課題の追求を保留している。政権関係者が言うには、この政権は単一課題を追求するホワイトハウスになった。(試訳1終わり)

 

ここで最初に「人質」になっているとされているのは約80万人の連邦政府職員。これらの職員は自宅待機になっているか、給料無しに出勤することを強いられています。

 

    その痛みからの怒りはトランプ大統領に主に向かいますが、妥協できない民主党側への米国国民の目も厳しくなっていくでしょう。誰が得する訳でもないチキンゲームですが、それでもトランプ大統領が壁にこだわるのは、自分の支持基盤に関わっているからです。

 

 次は、この記事の最後の2パラです。

 

The president believes that the wall represents his contract with America, certainly his contract with his supporters,” said Mr. (William) Galston (, a former domestic policy aide to President Bill Clinton), who is now at Brookings Institution. “He regards it, and I think probably accurately, as the issue that did more than any other to propel him to the White House.”

       “The government shutdown,” he added, “is not over a peripheral issue that overshadows other issuesIt is the most important issue, at least from the perspective of the president.”

(試訳2)

  大統領は、壁はアメリカとの契約、なかんずく支持者との契約を具現するものだと信じている」とビル・クリントン大統領の内政担当補佐官であったウィリアム・ガルストン氏(現在、ブルッキングス研究所在籍)と述べる。

  「政府閉鎖は、他の課題に影を落とす周辺的な課題に関するものではない。それは、少なくとも大統領の視点から見れば、最も重要な課題(に関するもの)である。」

(試訳2終わり)

 

 マクロン仏大統領の基幹的な支持基盤が都市部在住・高学歴・国際派のエリートであるとすれば、トランプ大統領の熱心な支持者は相当方向性が違います。これらの熱心な支持者は、CNNやニューヨーク・タイムズ紙ではなく、保守的なFOXを見たり、右派のトークショー・ホストであるラッシュ・リンボー(写真)のラジオ番組を好んで聴く人たちです。

 

 

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ラッシュ・リンボー氏)

 

NYT紙の別記事でも見かけたのですが、不動産ビジネスで鳴らした(とされる)トランプ「候補」にとっては、移民・犯罪規制のための「壁の建設」は目に見えて分かりやすい公約であることから、選挙ストラテジストはそれを選挙運動の中核にした経緯があります。

 

    実際は、結局のところ不法滞在ことになる外国人は普通の旅行者として海空から米国に入るケースが大多数です。また、薬物もメキシコ国境を越えてやってくるのはほんの一部分ではありません。よって、5000億円も使って壁を建設するのは実際はどうかとうことなんでしょうが、これは一つの政治的なシンボルとなっているため、大統領も議会民主党も後には引けない話となっています。

 

 

 米国の混乱は今後とも我が国を含む世界各国に影響しますが、拱手傍観せざるをえないことが腹立たしい気もします。