【時事英語に学ぶ】(その10)「型破り」な英国下院議長

こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。

 

    今回は、型破りな英国下院議長(ジョン・バーコウ)を取り上げた1月21日付のニューヨークタイムズ紙です。

★全文掲載やリンク貼りはしません。ご興味があれば、同紙サイトなどからご覧下さい。

 

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   私は英国の議会制度などにはそれ程詳しくありません。英国のEU離脱という騒ぎがか無ければ、こういう記事も読まなかったし、この人も知らなかったでしょう。

   この記事では、バーコウ議長の出自や人となりについて縷々書いています。

   同議長は、ルーマニア移民3世です。元々の姓はバーコウビッチだったそうです。非英語圏の人が英語圏に移住して純英語風の姓ににしたり、名前をマイケルとかジョンとかにするのは良くある話ですね。

    バーコウ氏のお父さんはロンドン近郊で会社を経営していたのですが、経営が破綻してしまい、タクシー運転手になってしまったそうです。そんな家庭で育ったバーコウ氏は、子供の頃から政治に興味があり、また、中学、高校では先生にも歯向かう反骨性があったようです。ただ、英国男性としては短躯なので、高校時代は強い級友から池に落とされたりしたらしいです。

   英国のEU離脱騒動では、テレーザ・メイ首相に注目が集まっていますが、バーコウ議長を1月21日付のNYT国際版が取り上げています。

 

Parliament speaker is Brexit’s sharp-tongued star and villain

(20190121 NYT International Edition P4 [London] by Ellen Barry)

 

 (記事タイトル試訳)

「下院議長はブレグジットの毒舌スター兼悪役」

 

      He (Mr. John Bercow, speaker of the House of Commons, UK) doles out his pompous, antiquarian insults, cheerfully rebuking one member for “chuntering from a sedentary position ineloquently and for no obvious purpose.”

(試訳1)

     英国下院議会のジョン・バーコウ議長は、尊大かつ大時代的な中傷を捻り出す。例えば、「訳のわからない発言を座りながらぶつぶつ喋るだけで、何の明確な目的もない」などとある議員を嬉々として譴責したりする。(試訳1終わり)

 

   うう、難しいですね。要するに、「下らない無駄話をするな」と言いたいのでしょう。

   バーコウ氏は子供の頃から、ディズレイリといった昔の大政治家の演説を好むませガキだったということで、大時代的な物言いをする素地はあったと言えます。

    それにしても多彩な言葉を操るもので、英国政界では、バーコウ議長は毎日寝る前に類義語辞典を熟読しているのではないかという噂があるそうです。ブレグジットという英国政治の急場において、豊富な語彙を操って議長職を楽しんいるとも言われています。

    しかし、バーコウ議長が型破りなのは、多彩な言葉使いでも、下院議長が伝統的にかぶってきたカツラをかぶらないことだけではないようです。

 

      The outside world rarely takes much notice of the speaker of the House of Commons, a nonpartisan and typically low-profile figure who presides over parliamentary debates. But Britain’s last-minute paralysis over leaving the European Union, or Brexit, has made Mr. Bercow into a kind of celebrity.

 With less than 10 weeks left before the country is set to leave the bloc, he has broken precedent by wresting some control over the Brexit decision-making from Prime Minister Theresa May, allowing Parliament to act to stop the country leaving without a deal.

(試訳2)

   外部の人間が英国下院議長を気に掛けることはほとんどない。下院議長は党派を離れており、典型的には目立たない人物で議会での議論を差配する。しかし、英国のEUからの離脱(ブレグジット)の最終局面で英国の機能不全状態によって、バーコウ氏は一種の有名人になった。

    英国のEUからの離脱まで10週間を切った状況で、バーコウ氏はテレーザ・メイ首相からブレグジットに関する意思決定に関する権限の一部奪い取ることで前例を破り、議会が(EUとの)合意無しに離脱することをやめさせるために行動することを許した。(試訳2終わり)

 

      冒頭に述べたように、私は英国の政治制度・体制にはそれ程詳しくありません。しかし、この記事や他のブレグジット関連記事を読む中で、なるほど、英国の制度や同制度からある程度影響を受け受けた議員内閣制を取る国の政治体制はアメリカ的な制度とはニュアンスが違うものだなと感得するところがあります(この辺が英字紙を読む利点の一つだと思います。)。

     英国の政治制度において圧倒的に優越しているのは行政府であり、また、そうあるべきというのがこの記事でも紹介されている保守派の支配的な見解のようです。この見解の下では、議会は行政府の政策案をチェックするのみの存在とされます。そして、個々の若手・中堅議員は院内総務(whip)やその手下によって心理的あるいは物理的に党議に拘束され、単なる党の駒と成り下がります。

    英国政党の党議拘束力が弱まっていることは確かで、そうでなければ、メイ首相の離脱妥協案に保守派からあれ程の造反議員が出る筈はありません。しかし、それに加え、この時期にルーマニア移民3世で労働者階級のユダヤ人(史上初)が伝統ある英国下院の権限強化に力を尽くしていることは面白いと思います。

    バーコウ氏は本年で議長職を退くそうですが、彼がまがりなりも先鞭を付けた英国下院議員の権限強化が更に進むかに注目しておきたいと思います。

 

   お立ち寄りありがとうございました!