【時事英語に学ぶ】(その12)トランプ大統領の強敵、ペロシ下院議長の「倍返し」

  こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。

 

今回も米国内政。NYT国際版2019年1月26〜27日付です。

 

★全文掲載やリンク貼りはしません。ご興味があれば、NYTサイトにどうぞ。

 

A woman in control flummoxes Trump

(NYT International Edition 20190126-27 P6 [News Analysis] by Sheryl Gay Stolberg)

(記事タイトル試訳)

 「権力を持つ女性がトランプ大統領を当惑させる」

 

  以前のNYT記事で、トランプ大統領ナンシー・ペロシ連邦下院議長のような女性と相対したことがないという一節がありました。この記事は、そのテーマを掘り下げたもの。flummoxとかいうノンネイティブ泣かせの単語を使われて、私はとうわくしました(笑)。連邦政府の部分的機能停止とメキシコ国境の壁(あるいは鉄のフェンス)建設問題については、今後3週間は連邦政府を再開しておいて、その間に国境警備についての共和・民主両党での成案を作らせるということで一旦落ち着きましたね。

 

 

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 これって、昨年12月の妥協案と殆ど変わらないようで、だったらその時に落ち着けばこんな長期の連邦政府機能閉鎖もなかったからよかったじゃんということですよね。しかし、トランプ大統領がその妥協案にサインしようとしたところ、保守派の論客が「トランプは負け犬」と騒ぎだしたのでトランプが怖気づいて(というのが適当かな?)強硬路線に戻ったということらしいですね。今回の妥協案が発表されたら、やはり保守派の論客はトランプ大統領に対して「弱虫中の弱虫」などと悪口雑言を吐いているようですね(悪い友達は持たない方がいいと思います・・・・)。

 

 トランプ大統領としては、ビジネス時代の決して下りない交渉姿勢で突き進み、80万人の連邦政府職員を自宅待機あるいは無給で働かせても、自分の信ずるところ(=強硬な保守派たる基盤的支持者とその扇動者が信じるところ)を貫こうとしたわけですよね。しかし、思ったよりも連邦政府の部分的閉鎖の米国経済社会への悪影響は大きかったし、その責任の多くはトランプ政権側が負うことになってしまいした。この辺が引きどころなんだと思います。

 

    なお、連邦政府職員の苦境についてはトランプ大統領自身はそれなりに気を付けて発言しているようなのですが、政権幹部がとんちんかんな発言や不用意な発言をしてペロシ下院議長に揶揄されたり、メディアに突っ込まれたりしたようです(この辺は、今回取り上げた記事と共に掲載されているPresidents team of millionaires stumbleという記事に詳しいので、ご興味があればご一読の程を。)。

 

 トランプ大統領についての一つの「誤算」は、中間選挙での民主党大勝を受けて二度目の連邦下院議長に就任したナンシー・ペロシ氏が凄腕であり、同大統領にとっては今までに会ったことのない女性の交渉相手だということですね。そもそも、トランプ大統領はビジネス時代から女性は与みやすい交渉相手だと考えていたようではあります。

 

    政権内部に多くの女性を登用してはいるのですが、自分が自分と同じ権力を有する女性を相手にし、その相手が対等に渡り合ってくるという状況に困惑しているという訳です。大統領選での対立候補であったヒラリー・クリントンも好敵手であったのでしょうが、既にいません。しかし、ペロシ氏は連邦下院議長という立法府の長として少なくとも今後2年間は目の前に立ちはだかります。

   For a president who prides himself on being a master negotiator, Ms. Pelosi is a different kind of opponent, and one who so far has flummoxed him. 

   Longtime friends of the president say Mr. Trump is not afraid of powerful women, respects them and has empowered them at the White House and in his business. But on the rare occasion when he was challenged by a woman, Mr. Trump was either in charge - or knew the woman had a boss, usually a man, to whom he could appeal, said Barbara A. Res, a former executive vice president of the Trump Organization. 

   In this case, Ms. Pelosi is her own boss. And underthe Constitution, she is a leader of a branch of government that is equal to the chief executive.

 

(試訳1)

    自分が交渉の名人であるとの誇りを持っている大統領にとって、ペロシ下院議長は(今までとは)違った種類の敵対相手であり、また、現在まで当惑させられてきた人物である。

 

    長年友人によると、トランプ大統領は強い女性を怖れず尊敬し、ホワイトハウスや自分のビジネスで権  限を持たせてきた。しかし、女性から挑まれたまれな状況においては、トランプ氏は上司であったか、その女性に上司がいることを知っていた。その場合には、大抵男である上司に話を持って行けば良かったとトランプ財団の上級副社長であったバーバラ・レス氏は述べる。

 

   ペロシ下院議長は自分自身が上司である。また、憲法、政府の一部門の長であり、代表取締役に等しい。(試訳1終わり)

 

   和訳の話を幾つか。flummoxed困惑と訳すのが適切なのかという問題があります。筆者が敢えて語源不明なゴツゴツした得体の知れない言葉を使うべきなのかもしれませんが、日本語の語彙力が足りません(なお、日本語としての自然さの観点から、原文は能動態でしたが、訳文は受動態としました。)。under the Constitutionというのを憲法としたのも、日本語の慣用に従いました。

 

    閑話休題

 

    トランプ大統領は政敵に対してはニックネームを付けるのが常だということです。男性にはその政策などを揶揄したニックネームを付けますが、女性に対しては容姿をネタにします(犬とか)。しかし、ペロシ議長に対しては容姿への揶揄はしていませんし、政策をネタにしたニックネームを付けようとしましたが定着しませんでした。結果として、ツイッターなどでも「ナンシー」と上の名前で呼ぶのみです。これってニックネームとは言えませんw

 

   トランプ大統領ペロシ議長との間では、国境の壁、政府機関一部閉鎖では丁々発止のやり取りが行われます。議会指導者と膝を突き合わせての大統領執務室での会談では、壁建設予算でペロシ議長側が容認の余地がないと表明すると、「交渉」の席であるにも拘らずトランプ大統領はさっさと席を立ってしまいます。気の弱い議会指導者なら大統領の意を迎えて汲々としそうなものですが、ペロシ議長は子供っぽい癇癪と切って捨てます。一般教書演説ついてのやり取りでも後ろに引きません。

 

 

      The speaker, for her part, has used Mr. Trump's playbook against him. After the much-publicized Oval Office meeting, she described his demand for a wall as "like a manhood thing for him" during a private session with Democrats. The comment quickly leaked out. At other times she cast Mr. Trump as a toddler.

  “A temper tantrum by the president,” Mr. Pelosi said this month, describing Mr. Trump’s conduct during the shutdown. “I am a mother of five grandmother of nine. I know a temper tantrum when I see one.”

  (中略)

  When Mr. Trump tried to undercut Ms. Pelosi during the Oval Office session last month by suggesting she was constrained because she was facing a challenge in her bid to become speaker, she cut him off.

 “Don’t characterize the strength that I bring to this meeting as the leader of the House Democrats,” she told him, in a moment that quickly went viral.

(試訳2)

  ペロシ下院議長の側でも、トランプ大統領ゲームのやり方を大統領に対して使っている。広く報道された大統領執務室での会合の後、民主党関係者との内輪の集まりで、大統領の壁の要望について、「大統領にとっての男らしさみたいなもの」と表現した。このコメントはすぐにリークされた。また、他の機会には、大統領を幼児になぞらえた。

  今月、ペロシ議長は、政府機能停止の間のトランプ氏の行動を「大統領が駄々をこねていると描写した。「私は5人の子持ちだし、孫も9人いる。駄々をこねているのを見ればそれと分かるわ。」

 

先月の大統領執務室での会合でトランプ大統領は、ペロシ氏の気勢を削ごうとして、下院議長選出への挑戦を受けているのでできることには限界があるのではないかと述べた。ペロシ氏はそれを遮って発言した。

 「下院民主党の代表としてこの会合に来ている私の力について勝手に決めつけないでいただきたい。」とペロシ氏は大統領に述べ、これは早々と内外に知られるようになった

(試訳2終わり)

 

 第一ラウンドペロシ下院議長の勝利だったことは、民主党はもちろん共和党側も認めるところです。大統領もそうですが、英国と違って実質的な力を有する米国下院議長がその気になれば色々なことができるということなのでしょう。今後3週間でどのような妥協が民主・共和党間でなされるのか、それを踏まえ内外の課題に米国が立ち向かうことになるのかに注視すべきでしょう。