【時事英語に学ぶ】(その18)中国の「大豆外交」。アルゼンチンの中国依存から学ぶべきこととは?

こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。

 

Chinas soybean politics(NTY International Edition 20190131 P7 by Brook Larmer)

   ニューヨークタイムズ・マガジンからの転載です。中国の世界への影響力浸透についてはこの10年来ずっと語られているところですが、今回はアルゼンチンです。タイトル試訳は「中国の大豆政治」。ただ、この記事のタイトルは、「外交」にしました。

 

★記事全文や記事リンクの貼り付けは行いません。ご興味がある方は、NYTサイトにどうぞ。

 

 記者がアルゼンチンに家族旅行に行っているついでに取材をしている体の記事ですね。アジアで生活した息子さんがレストランで料理に醤油を所望したけれども中々見つからなかったというところから始まります。結局は韓国料理店で醤油を見つけて旅行中に食事で使うことになったといういうことで〆ていましたが、この醤油も中国製というオチでした。中身も情報豊かでありますが、いたずらに反中的でもない淡々として記事ですね。

 

 この記事では、アルゼンチンは1世紀前というタイミングで既に、穀物や牛を欧州に輸出することで一人当たり国民所得では世界のトップクラスであったことが紹介されています。現在でも農業に依存しているアルゼンチン経済ですが、更に特筆されるのはこの10年の間に、大豆が主に中国に輸出されるという状況から、「アメリカの裏庭」に位置する同国の最大の貿易国が中国になった(2017年時点で2440億ドル。)という驚くべき変化が見られます。中国による大豆の大量輸入は、中国の貪欲な国内市場を満足させるものでしたが、ここ数年、両国の関係がより広範かつ深化してきたことが描写されます。この変化は、アルゼンチンの政権が左派から保守派になっても進んでいきます。イデオロギーだけではメシは食えないのです。

 

​      In the past few years,though, Chinese engagement has spread and deepened,especially with left-leaning governments that are in financial trouble and looking for an alternative to American influence. In Argentina, the president, Christina Fernandez de Kirchner, turned to China in 2014 after her government defaulted on $100 billion of international debt. In addition to offering $11 billion in currency swaps to increase Argentinas depleted reserves,China began rebuilding a rail line across Argentinas agricultural heart, constructing two hydroelectric dams and erecting a space station in the arid plateau of northern Patagonia.

 

(試訳1)しかし、ここ数年の間、(米国の裏庭である中南米に対する)中国の関わりは拡大と深化を示している。それは特に、財政問題を抱え、米国の影響力に対する代替模索する左派政権との間では特に顕著であった。アルゼンチンでは、クリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネス大統領は2014年、1兆ドルの対外負債について支払不能に陥った際、中国に目を向けた。中国は、アルゼンチンの枯渇した外貨準備を増やす為に110ドルの通貨スワップを提供することに加え、同国の農業中心地域での鉄道再建を始めた。また、水力発電所二基と乾燥した同国北部パダゴニアの高地で宇宙ステーションの建設を始めた。        

                                                                                                                  (試訳1終わり)

 

  この左翼政権を2015年に継承したのがマウリシオ・マクリ大統領。保守派の同大統領は中国の影響力を排除しようとして、中国によるダム建設を中止に追い込みます(中国の進出が進展している世界の他の地域でも良く見られるパターンです。)。しかし、報復として中国側が大豆の輸入量を30%減らし、また、ダム建設が中止されれば投資が中止される契約条項があることを指摘して、決定の撤回を迫ります。

 

 

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(マクリ大統領)

 

 マクリ大統領が中国からの圧力に抗することができなかったのは、アルゼンチンの財政問題が悪化していたのと保護貿易主義を取るトランプ大統領の当選です。マクリ政権としては、米国との間で「相思相愛の関係」(carnal relationship)を構築しようと思ったのですがその希望を失い、中国排除から中国との友好関係構築に極端に舵を切ります。(carnal relationshipというのは「肉体関係」としか本来訳せないような気がするのですが・・・・プラトニックにしてみました。)

 

  親中政策に舵を切った後のマクリ政権は農業関係で多くの取り決めを結ぶなど、対中関係深化に踏み込むことになります。

 

​        The shift in attitudes was evident at the Group of 20 meeting in Buenos Aires late last year. Trump and Macri had a cordial one-on-one meeting;American support had been crucial to obtain $56 billion loan package last year from the International Monetary Fund. But when Trumps press secretary, Sarah Huckbee Sanders, said the two leaders discussed predatory Chinese economic activity,” Macri felt compelled to object.

 

(試訳2)(マクリ政権の)態度の変化は昨年ブエノスアイレスで開催されたG20首脳会議で明らかであった。トランプ・マクリ両大統領は、親密なバイ会談を行なった。昨年、国際通貨基金から560億ドルの借入を得たのには米国の支援が必要不可欠ではあった。しかし、トランプ大統領報道官サラ・ハッカビー・サンダース氏が両国首脳が「中国の強奪的経済活動」について議論したと述べた時にはマクリ大統領はそれに反論しなければならないと感じた。(試訳2終わり)

 

(太字部分の英訳については、ちょっとこなれていないと自覚しています…。)

 

        ということで、マクリ大統領補佐官は「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」紙に対して火消しに追われます。アルゼンチンにとっては、伝統的な友好国である米国と現在では最大の貿易相手国であって経済的な実利の大きな中国との間のバランス外交を行わざるを得ません。「アメリカ第一主義」を標榜して本当に必要な時に助けてくれなかった米国と違い、中国はアルゼンチンとって「真の友」になってしまったということでしょう。

 

       トランプ大統領との会談数日後、マクリ大統領は習近平中国国家主席と会談し、そこで、お互いの関係を「包括的戦略同盟」関係に格上げしました。これは、マクリ政権がトランプ政権との間で当初模索した(肉感的な響きもある)「相思相愛の関係」程ではないですが、必要に迫られてしていた結婚関係よりもステップアップです。中国と対峙する民主主義国(米国、日本、インド、豪州など)は、国内で多様な意見があってしかも政権交代がありますから、中長期に一貫した方針で対外政策を実施できる一党独裁制の国には遅れを取りがちです。

 

       In December, Xi and Macri signed more than 30 new agricultural and investment deals, including anothet $8.6 billion curency swap that makes China the biggest noninstitutional lender in Argentina. The swap functins as no-interest loan that helps keep the country afloat and and tamp down Argentina's almost 50% inflation rate. The atmospheric of the meeting was even more telling. When the Argentine polo associaton presented Mr. Xi with a horse, the Chinese leader smiled delightedly as Macri fitted him with a red polo helmet emblazoned with the five yellow stars of China's flag. 

 

(試訳3)12月、習近平主席とマクリ大統領は、30以上の新たな農業及び投資関連の取り決めに署名した。これら取り決めに含まれる86億ドルの通貨スワップによって、中国は、アルゼンチンにおいて国際金融機関を除いて最大の資金提供国になった。この通貨スワップは無利子の資金貸付として機能するものであり、(マクリ)政権を支え、ほぼ50%に及ぶアルゼンチンのインフレ率を抑制することになる。(両国の緊密な関係は、これら事実以上に)首脳会談の雰囲気がより多くを物語る。アルゼンチン・ポロ協会が習主席に馬をプレゼントした時、マクリ大統領は、中国国旗の黄色い五つの星をあしらったポロ用の赤い帽子を自ら習主席に被せて見せたが、それを受けて習主席は喜びの笑みを浮かべたものである。(試訳3終わり)

 

    マクリ大統領はこの1月には、自分が建設差し止めを一旦は命じたダムの起工式を行ないました。アルゼンチンおいては、中国からのチタン鉱山への投資、南極観光の足場としてのアルゼンチン観光促進による中国人観光客の増加も見られると記者は指摘します。このように、アルゼンチンを含む中南米地域への中国の進出は急かつ多面的なのですが、中国と米国との覇権競争の象徴は大豆であるというのがこの記者の主張です。それこそが、この記事に「中国の大豆外交」というタイトルが付けられた理由なのでしょう。

 

     For all its geostrstegic interests, China's relationship with Latin America is still driven by basic commodities, and soybean have become a symbol of superpower competition. As a result of the trade war and the rataliatory tariffs China placed on American soybean products, China did not import a single soybean from the United States in November. Brazil and Argentina have leapt into the gap.

    Despite a drought that reduced harvests by 40 percent last year, Argentina still exported seven million tons of soy beans to China. (To feed its crushing facilities, Argentina also become, weirdly, the largest importer of American soybeans in 2018.) This year, after abundant rainfall, Argentina expects to export 14 million tons of soybeans, double the level from two years ago   ---  almost all of them go to China.

 

(試訳4)戦略地政学的な利益はあるにせよ、ラテン・アメリカと中国の関係は、いまだに基本的な産品によって動かされている。そして大豆は超大国間の競争のシンボルになった。(米中間の)貿易戦争及び中国が米国の大豆産品かけた報復関税のため、昨年11月には中国は米国産大豆を一粒も輸入していない。その間隙に飛び込んだのブラジルとアルゼンチンだった。

    昨年旱魃のため(大豆の)収穫が40パーセント減少したにも拘らず、それでも、アルゼンチンからは700万トンの大豆が中国に輸出された。(国内の大豆圧砕施設への原料を供給する為、おかしなことであるが、2018年、アルゼンチンは米国産大豆の最大輸入国になった。)  今年(2019年)については、豊富な雨量のためアルゼンチンは2年前の水準2倍である1400万トンの大豆を輸出する見込みであるが、その殆ど全量が中国向けとなる。(試訳4終わり)

 

     最後の場面で、韓国レストランでやっと手に入れた醤油が「中国製」とだったところで記事は終わっています。これも中々象徴的なところで、結局、アルゼンチンは付加価値の低い大豆そのものか半製品を中国に輸出してより付加価値の高い(=高価な)醤油を輸入している訳です。そして、本来であれば自国の資本で建設すべき鉄道や発電所まで中国頼りになっています。

 

     アルゼンチンの事例から我々が学ぶべきことは何でしょうか。第一に、自国を支配しようとする国によりも付加価値の高い産業を維持し、その産業を守ることでしょう。第二に、そのような付加価値の高い産業を支えるインフラへの外国勢力の進出を防ぐことでしょう。一部の発展途上国は、鉄道を含む国内連結性の増強・維持に外国からの支援を無邪気に求めます。日本は先の戦争後、明らさまな帝国主義的野望は有していませんが、そうでない国も多々あります。中国側が意図しているか否かに拘らず多くの発展途上国が陥っている「債務の罠」にアルゼンチンが陥るかどうかはともかく、「他山の石」として横目で見ていけば良いのではないかと思います。

    

    長々となりました。お立ち寄りいただきありがとうございます。