【時事英語に学ぶ】(その20)カザフスタンから見る「一帯一路」構想

  こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。はい、新聞からも学びます

 

 The trillion-dollar nowhere/Kazakhstan border town has become a harbinger of an interconnected planet

(NTY International Edition 20190202-03 P1 [From the Magazine] by Ben Mauk)

 

    「ニューヨークタイムズ・マガジン」からの転載記事で、中国の「一帯一路」構想のなかで中国がユーラシア大陸を一体化しようとする中で重要性が急激に増しているカザフスタン・中国国境の街、コルゴスKhargosについてのルポです。

  

★記事全文は貼り付けません。ご興味あればNYTサイトにどうぞ。

 

  「一帯一路構想の成否及び評価が明らかになるにはまだ時間が掛かります。そして、我々がこの構想に対して日本の主権者として何らかの判断を行うには何が動いているかを知ることが必要です。その為には、この記事(2019年2月2・3日付「ニューヨーク・タイムズ」紙国際版掲載)は有用だと思います。ただ、何かもったりとした記事ではありました。でも、論文ならざるルポ記事ならこのようなものかもしれないですね。

 

   タイトル仮訳は「数兆ドルの価値ある名無しの場所」(相互連結された地球の先駆けになったカザフスタン国境の街)」とでも訳しておきます。ちと訳しにくいですね。“the planet”は「地球」と意訳してみます(他の惑星のはずはないですから)。”nowhere””no one ”が「大したことない人物」、「下位の人物」、「無名の人」くらいの意味なので、「名無しの場所」とこれも意訳してみました。

 

  私は初見でしたが、地理の世界では“pole of inaccessibility”という概念があるようで、ウィキによると和訳は色々な案があって「到達不能極」、「到達困難点」、「到達至難点」などがあるようです。ラフな定義付けとしては、陸塊の中で最も海岸から遠い地点ということで、ユーラシア大陸では今回取り上げる記事で触れられているように、中国とカザフスタン国境の中国側(新疆ウイグル自治区内)で海岸線から少なくとも1,550マイル(約2,494キロメートル)離れている場所がそれだということです。

 

  この記事の記者は、ユーラシアの「到達至難点」から80マイル(約129キロ。あー面倒くさい。メートル法を使えよ、アメリカ人。)離れたカザフスタン・コルゴス(人口908人)にアルマティから向かいます。「一帯一路」構造の全体像が説明されつつ、その結節点たるコルゴスについては以下の通りです。

 

  Khorgos is a flagship project of this work in progress, an international shipment hub and free-trade zone that its promoters say is poised to become the next Dubai. Thanks to its location, Khorgos has become a harbinger of the interconnected planet; a zone fully enclosed by the logic of globalization, where goods flow freely across sovereign borders, following corridors designed to locate every human being on the planet within a totaling network of producers, buyers and sellers.  

 

(試訳1)コルゴスは、現在進行形の(一帯一路構想という)取り組みの看板プロジェクトである。コルゴスは、国際的な運輸拠点であり、また、自由貿易地域である。 コルゴスを振興しようとする者は、この街次のドバイになる用意ができていると言う。その位置のおかげでコルゴスは相互に地域連結された地球の先駆者になった。この地域はグローバリズムの論理に完全に包み込まれている。そして、物品は各国の国境を越えて自由に流れていく。この流れは、地球上の全ての人間を生産者、購入者、売却者の包括的なネットワークの中で把握するように設計された回廊を通っていく。(試訳1終わり.

 

英訳について。flagship projectというのは、「看板プロジェクト」としておきました。直訳調であると「旗艦プロジェクト」になります。しかしそれでも余りにも翻訳調なのでこのように訳してみました。翻訳調の言葉が流布して日本語化したケースは多々あると思います。しかし、往々にしてそうではありません。英語の慣用句にこなれた日本語がぴったりとはまる事例があることから感じることは、やはり翻訳調から離れた表現を追求する努力をやめてはいけないということだと思います。】

 

  閑話休題

 

  「一帯一路」(BRI)構想というのは、周知のとおり、陸のシルクロード及び海のシルクロードからなるものであって、現在世界68ヶ国(世界人口の約3分の2)が参加し、現在まで中国は2000億ドルを支出し、最終的には1兆ドルを支出して関係各国の各種プロジェクト実施を助けることになります。これは小国にとっては目くるめくほどの輝きです。この記事でも形容されていますが、「底が知れない(unfathomable」事業だと言えます。具体的なプロジェクトとしてはパキスタンとの間でのCPECなどがありますが、記者はBRI構想についてより良く理解するためにはコルゴスを見るべきと考えます。コルゴスは大昔にZharkentと言われた交易拠点跡を取り囲んでいる村なのですが、記者は、アルバイトタクシー運転手の車に乗って中国・カザフスタン双方を遠望できる地点からこの地域を観察します。

 

The Chinse side of the border was easiest to spot. Since 2014, an instant city of 100,000 people, also called Khorgos (sometimes spelled Horgos), has appeared; its dark high-rises glittered in the sun. The Kazakh side of the border is less impressive from afar, but I knew it now hosted a first-of-its-kind free-trade zone, opened on territory shared with China. Behind a copse of cypress trees, I could also make out the gantry cranes of the new dry port --- an inland shipping-and-logistics hub for freight trains --- that began operating in 2015. Adjacent to it was a nascent railroad company town, and other plots nearby were cleared for factories and warehouses to be staffed by some of the future residents of the city of 100,000 that, if all goes as planned, will soon rise to match the one across the border. 

 

(試訳2)国境の中国側を見つけるのは極めて容易である。2014年以降、カザフスタン側と同様に)コルゴス(時にはホゴスと書かれることもある)と呼ばれる人口十万人の即席都市がそこに現れた。この街の黒い高層ビルは陽光に輝いている。遠望するカザフ側の国境は、(中国側と比べて)より印象が薄い。しかし、ここはそのような種類のものとしては初めての自由貿易地域を擁しており、これは、中国と共有した場所に開かれている。イトスギの雑木林の後ろには、新しいドライポートのガントリー・クレーン認めることができた。このドライポートは、貨物れっさのための内陸における輸送・ロジスティクス拠点であって、2015年から操業を開始した。このドライポートに隣接するのは、新たに生まれた鉄道会社の街である。そして、その他の区画は工場や倉庫に整地されている。これら工場等には、未来の10万人都市の住民の一部が働くことになる。計画通り行けばこの都市はまもなく立ち上がって、国境の向こう側の都市に匹敵するものになるだろう。 (試訳2終わり)

 

【英訳について。easiest敢えて「極めて容易」と訳しました。gantry cranes業界では普通の言葉なので「ガントリー・クレーン」と訳しました。港湾で荷揚げをするクレーンなんですね。色々な記事を理解するには種々の知識が必要と痛感しますね。ドライポートは「陸の港」なので、荷揚げ・荷捌きをするためのクレーンが必要だと。

 

  閑話休題

   このように言いつつ記者は、カザフスタン・中国間のチェックポイントの向こう側、中国で最も大きな領域である新疆ウイグル自治区における中国政府の強権政治(特にウイグル族)について述べます(なお、最近の報道では、カザフ族への弾圧も仄聞します。)。この記事では、同自治区の80万から200万のイスラム教徒が1000に亘る収容所に収容されているとの米国国務省の報告を引用していますが、このような「事実」認定は、米国超党派が対中強硬姿勢で一致する一つの要因になっていると思われます。

  BRIは中国の一大国策になっていることもあり、かなりじゃぶじゃぶとカネがつぎ込まれている状況のようです。この記事では、なんでもかんでもBRIの「冠」が付くということで、「デジタル・シルクロード」とか「太平洋シルクロード」とか「シルクロード・オン・アイス」といったコンセプトが乱立しているようです。「ユーリ・オン・アイス」じゃないんだから。その中で、BRIを批判する向きはこの構想によってカネ詰まりの国が「債務の罠」に陥ってしまう。その典型がスリランカのハムバンドタ港プロジェクトで、債務返済困難に陥ったスリランカは同港を中国に99年間租借しました。香港を英国に99年間租借させられた中国がスリランカから同様の租借を受けたというのは(規模は違いますが)新たな「帝国主義」という誹りも強ち筋違いではないのかもしれません。

  BRI構想の中で、カザフスタンは極めて重要な地位を占めます。そして、カザフの人達もBRIに大きな期待を寄せています。この構造は、BRI構想に参加した途上国関係者の多くが共有する感情でしょう。

 

Kazakhstan is poised to play a central role in China’s plan. The B.R.I. was first announced in the Kazakh capital of Astana, at a 2013 ceremony attended by Xi and Kazakhstan’s longtime president, Nursultan A. Nazarbayev. At the same event, Xi and Nazarbayev also celebrated the opening of a joint gas pipeline signed $30 billion worth of trade and investment agreements. Although in the past Kazakhstan’s economy has tended to orbit Russia’s, in 2007 China edged out Russia as Kazakhstan’s top importer, and some critics fear that the B.R.I. is leading the country deeper into economic vassalage. But the government is not letting such criticisms, or even the presence of a prison state across the border, interfere with its collaboration with China.

Khorgos Gateway rises out of the flat dessert basin, a moon base of cranes and storage silos into which, every so often, a freight train slowly rolls. The chief executive of Khorgos GatewayZhaslan Khazmin, welcomed me into a tidy office overlooking the freight yard. “The future lies here,” he said proudly.

 

(試訳3) カザフスタンは中国の計画で中心的な役割を演ずることが見込まれている。「一帯一路」構想は最初、同国首都のアスタナで2013年に習近平国家主席と長年の同国大統領ヌルスルタン・ナザレバエフが共に出席した式典において発表された。同じ行事において両大統領は、共同ガスパイプラインの開設を祝い、300億ドルに及ぶ貿易投資面での取り決めに署名した。過去、カザフスタン経済はロシアの周りを回っていた傾向があるが、2007年には中国はカザフスタンからの最大の輸入国としてロシアを凌駕した。何人かの論者は、「一帯一路」構想はカザフスタンを更なる(中国への)経済的隷属関係に導くのではないかとおそれている。しかし、(カザフスタン)政府は、そのような批判、また、国境の向こうに収容所国家があることが中国との協力関係に影響を及ぼすことがないようにしている。

「コルゴス・ゲートウェイ」、平らな砂漠盆地の中に現れている。それは、クレーンと貯蔵サイロからできた月面基地のようなもので、貨物列車がひとつずつひっきりなしに滑り込む。「コルゴス・ゲートウェー」の長であるナズラン・カズミン氏は、貨物場を見下ろすことができる小ぎれいな執務室に私を迎え入れると、「将来はここにある」と誇りを込めて述べた。(試訳3終わり)

 

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(ナザルバエフ・カザフスタン大統領)

 

  この後、色々な製品の事例が語られますが、要は、コルゴスはここ数年で世界最大のドライポートになる事が予想されています。海運・空運との比較優位が欧州に半製品を輸送する中国企業等によって認識され始めたということです。なお、「ドライポート」は「陸上港」ともいうようですね。(海)港、空港とならんだ概念ですから、個人的にはしっくりきますが、一般的なものにはなっていません一定の機械化はなされているわけですが、それでも労働集約的な職場はたくさんできることが予想されます。雇用機会創出が使命であるいかなる政府にとっても、このような施設が長きに亘って安定的に運営されることは大歓迎でしょう。カザフ側の都市がどのような成り立ちになるかは分かりませんが、中国側の都市は共産党/政府がコントロールし、ウィグル族・カザフ族による反政府活動(の可能性)に厳しい視線が注がれる街であろうことは想像に難くありません。

 

The national railway company of Kazakhstan owns 51 percent of Khorgos Gateway. The remaining 49 percent is split between two Chinese state-owned companies. Khazmin viewed China’s participation not as economic imperialism but as proof of the port’s likelihood of success. The Chinese, he explained “are the kind of people that if they saw no commercial opportunity, they wouldn’t invest here.” Such arrangement are less one-sided in Kazakhstan than in some of the debt-strapped B.R.I. countries.But Chinese investments have in all likelihood muffled Kazakhstan’s response to the crackdown in Xinjiang.

Khorgos’s other major landmark is a boomtown of open borders known as the International Center for Boundary Cooperation, or I.C.B.C., which China and Kazakhstan established in 2011 about six miles from the dry port. In this duty- and visa-free zone, Kazakh citizens willing to brave hour-long wait at customs control are permitted to enter a walled section of the Chinese side of Khorgos across the border to buy cheap linens and electronics, and Chinse tourists may enter a walled leisure area inside Kazakhstan to buy souvenirs and eat Kazakh delicacies.

(試訳4)カザフスタン国鉄「コルゴス・ゲートウェー」の51%を保有する。残る49%は二つの中国国有企業が分有している。 「コルゴス・ゲートウェー」の長であるナズラン・カズミン氏は、中国の資本参加を経済的帝国主義とは見ていない。むしろ、このドライポートが成功する可能性の証だと説明する。中国人は「商業的な機会を見出さない場合にはここには投資しないような種類の人間だ」 。カザフスタンでのこのような(中国との)取り決めは、債務に縛られたいくつかの「一帯一路」参加国と比べれば一方的さが少ない。それでも、中国による投資は新疆ウイグル自治区における弾圧へのカザフスタンの反応を緩和しただろうと考えられる。

コルゴスでもう一つ大きく目を引くものは、「国境協力国際センター(ICBC)」として知られる機関で、開放国境において繁盛している街である。2011年にドライポートから6マイル(約9.7キロ)離れた場所に中国とカザフスタンによって設置された。この関税及び査証免除地域では、税関で長時間待つことを厭わないカザフ人は壁で区切られた中国側のコルゴスに入ることを許され、安価な衣類や電子製品を買うことができる。そして、中国の観光客は、カザフスタン内の壁で仕切られた娯楽施設に入って土産品を買ったり、カザフ料理を賞味することができる。 試訳4終わり)

 

このCBCは、ゴルゴス・ゲートウェーとセットになったもので、ここでは多くの安価な中国製産品を買うことができます。このような自由貿易地域は中国国内にはたくさんあるものの、一部が他国の領域に入っているものはここが初めてだということです。その意味でも、BRI構想にとってのカザフスタンの重要さが分かります。CBCに入ったカザフ人(富裕層?)が税関吏の黙認の下運び人を館外に待機させて「爆買い」をするのはご愛敬ですが、付加価値の高い製造業が存在しない途上国では中国製の安価な製品のみが流通し、その製品を売りさばくのみの「サービス業」がはびこっているという一面を垣間見る気がします。また、中国人観光客がたくましくカザフまでくるというのも、最近の中国の「膨張主義」を象徴するような気がします。

 コルゴス・ルポについてのこの記者の結論は以下のパラで明らかです。

In recent years, the name Khargos has instead become synonymous among Kazakhs with smuggling rings and high-profile corruption cases. In 2011, authorities arrested the head of customs at Khorgos as part of a $130 billion smuggling ring. Based on the crowds I saw in front of the border checkpoint, informal graymarket carrying at Khorgos seems to have replaced animal husbandry as the region’s main line of work.

The ancient Silk Road was equal parts trade route and social network. The routes themselves were in constant flux and administered by no one, and they succeeded through incremental growth and local knowledge in response to changing needs --- the exact opposite of the Ozymandian ambitions and sweeping autocratic statecraft that characterizes the Belt and Road. For all its potential to create jobs and modernizing infrastructure, the projects has also created a halo of mass internment camps for the powerless and gray-market economies for the poor. While new official jobs in Khorgos are lifting a lucky few out of poverty, it is far more common to find farmers and herders moonlighting as taxi drivers, security guards or smugglers, part of precarious network of low-paid freelancers.  Such work is susceptible to sudden changes in enforcement and depends on a constant influx of disposable workers. It seemed like a high cost for connecting the world.

 

(試訳5)

近年、「コルゴス」という名前は、カザフ人の間では密輸グループや人目を引く汚職事件と同義語になった。2011年には、(カザフスタン)当局は、1300億ドルに及び密輸事件の一環でコルゴスの税関長を逮捕した。国境のチェックポイントでの群衆を見た限りでは、この地域の主な仕事として、灰色マーケットの運び屋稼業が家畜業に取って替わったように見受けられる。

古代のシルクロードは、交易ルートでありつつ社会ネットワークだった。このルートそれ自体に恒常的な(ヒトやモノの)流入があり、誰によっても管理されていなかった。そして、漸進的な成長及び地域の知識が変わりゆく必要性に対応することで成功が見られた。これは、「一帯一路」構想を性格付ける巨大な野心と専制的な国家の支配とは完全に反対のものである。「一帯一路」構想には雇用創出やインフラ近代化をもたらす可能性があるが、同時に、弱者を収容する多数の大量収容施設や貧困層の灰色マーケット経済も作り出した。コルゴスにおける公共機関での仕事は一握りの幸運なものを貧困から引き上げた。しかし、農民や牧畜民がタクシー運転手、警備員あるは密輸業者としてアルバイトしている例を見出す方が遥かに普通である。これらは、低賃金の非正規労働者の危なっかしいネットワークである。これらの仕事は政府による取り締まり方針の強化や使い捨てができる労働者が恒常的に流入することに対して脆弱である。これは、世界を連結するための高いコストであるように見える。

(試訳5終わり)

 

  割と突然のとってつけたような結論であるように思えますが、要は、「一帯一路」構想がトップダウンによるプロジェクトであり、また、強権政治家など限られた階層には明確な利益となりますが、カザフスタン普通の国民の長期的な福利には貢献しないだろうということでしょう。とりとめのない紹介となりましたが、今後も「一帯一路」についてはフォローしていくことにして一旦は〆ることとします。  

 

   お立ち寄り頂きありがとうございました!