【時事英語に学ぶ】米国民主党の「統合失調症」

   こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。はい、時事英語からも学びます。

 

Opposition’s choice: Fight or heal?/The two U.S. senators running for president party with a philosophical choice 

(NYT International Edition 2019/02/14 by Alexander Burns

 

 一旦米国政治に戻ります。

 

    米中関係についてのオピニオンも読んでいるのですが、取り敢えず民主党の2020年大統領選挙についての記事です。

 

  「解説記事」と銘打たれているわけではないのですが、民主党の二人の大統領候補(正確に言えば、民主党大統領予備選挙への候補者)を取り上げて種々対比しており、中々示唆に富む記事です。

 

   この二人とは、コーリー・ブッカー連邦上院  議員(ニュージャージー州)とエリザベス・ウォーレン連邦上院議員マサチューセッツ州です。端的に言えば、ドナルド・トランプ大統領を打倒して民主党が政権を奪還するためには、前者の「癒し」のスタイルか後者の「闘い」のスタイルのどちらを基調にするのが適当かというのがこの記事の問いです。

 

 

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(コーリー・プッカー上院議員

 

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エリザベス・ウォーレン上院議員

 

 記事タイトルの仮訳は「野党の選択:闘いか、癒しか/大統領選に出馬した二人の連邦上院議員民主党に哲学的選択を提示する」(2019年NYT国際版6面)としておきます。

 

記事全文の貼り付けは行いません。また、記事へのリンク張りも行いません。ご興味がある方はNYTサイトにどうぞ。

 

 この記事では、2月13日?に中西部アイオワ州で相次いで遊説を行なったブッカー及びウォーレン両上院議員の遊説を題材にし、この遊説を聴いた同州の民主党関係者・支持者のコメントも得て、民主党大統領候補選びを展望しています。

 

    両上院議員の略歴はウィキに詳しいのですが、片や、アフリカ系黒人移民の両親(共に大企業幹部)で高校・大学フットボールの花形選手でスタンフォード大学からローズ奨学金を得て英国で学んだ後にニュージャージー州ニューアーク市長から連邦上院議員に当選したブッカー議員。

 

    片や、大学中退の専業主婦から法律を学び、ハーバード・ロースクールで教鞭を取り、倒産法の論文引用数では全米3位という権威。双方とも知的・社会的エリートであり、指導者たる資質を有していると言えます。「両親が黒人である男性」と「女性」ということで、どちらが大統領になっても「史上初」となります。そして、投票行動などから判断すれば、双方とも「リベラル派」と位置付けることが可能です。

 

ただ、2020年2月3日に全米に先駆けて大統領選候補選出の民主・共和両党党員集会が開催されるアイオワ州で見せたスタイルはほぼ正反対のものであったようです。

 

In the space of a weekend, the two Democrats mapped the philosophical and temperamental fork their party must navigate as it challenges President Trump. Down one path, Mr. Booker’s, lies a mission of healing and hope, with a campaign to bind up social wounds that have deepened in the Trump era. The other path, Ms. Warren’s, promises combat and more combat --- a crusade not just to defeat Mr. Trump but to demolish the architecture of his government. 

 

As much as any dispute over policy, this gulf defines the Democratic field, separating candidates of disparate backgrounds and ideologies into two loose groups: fighters and healers.

 

(試訳1)この週末、民主党の(上院議員)二人は同党の哲学的及び感情面での岐路を明示することになったトランプ大統領に挑戦しようとするなかで民主党は、この岐路をうまく選んでいかねばならない。ブッカー議員の道を行けば、癒しと希望に向けての使命がある。それは、トランプ時代に深まってしまった社会的な傷を縫い合わせることを目的にした選挙運動を伴うものである。もう一つはウォーレン議員の道であり、闘いまた闘いを約束するものである。これは、トランプ大統領を破るのみでなく、政府の構造を引き倒すための聖戦である。

 

  政策に対する議論と同程度に、(大統領選挙向けての)民主党陣営この隔たりが決定付けることになる。その中で、多様な背景と思想を有する候補者は、戦闘者と治癒者という緩い二つのグループに振り分けられることになろう。(試訳2)

 

 【英訳について:①この間某書店で立ち読みしたて言うか、買えよ・・・翻訳についての古い本(「  」)がありました。この中で、英文を和文に翻訳するなかでは、原文の勢いを活かすためにできる限り頭から訳する・必要に応じて文を分けるなどの記述がありました。今回、それを参考にして訳してみたつもりです。ただ、以前も述べたように和英辞典的に訳すのは絶対に不可であり、日本文化の文脈で分かるような訳にしなくてはなりません。これは、「右手で四角を書いて左手で丸を書く」ようなもので、苦労しますよね。mappedは「明示することになった」というありふれたものになりました。この辺をもっと巧く訳したいですねえ。field陣営訳しました。こういう簡単なような言葉が難しいです・・・・

 

このような問題意識は、民主党関係者・支持者の間でも共有されているようです。記者がアイオワ州でインタビューした元司法長官は、民主党全体がどこに向かうべきかについて「統合失調症」ではないかと感じていると述べます。をして、同氏個人としてもそうで、トランプ大統領に強く対抗する必要を認めつつも、米国統合の必要性も念頭に置いているというのです。そして、今後、ブッカー的あるいはウォーレン的メッセージが優位に立つか、それらのブレンドになるのか、自問しています。

 

    国全体にせよ、民主・共和各党にせよ、米国政治では「スペクトル」という概念が多用されます。社会問題について保守的か、中道か、革新的か。経済問題について保守的か、などなど。様々な選挙に臨む議員(候補)は、専門家からの助言も踏まえつつ自分をどこに位置付ければ良いのかを当然ながら考えるのでしょう。今回、このスペクトルの中に、「闘いか癒しか」が加わったということでしょう。

 

    Mr. Booker's rhetorical space has been less crowded so far, but several Democrats exploring the 2020 race have been employing similar themes. Joseph Biden Jr., the former vice president, and Michael Bloomberg, the former New York city mayor, have both extolled bipartisanship. Beto O’Rourke, the former Senate candidate from Texas, told Oprah Winfrey last week that he was preoccupied with uniting "a deeply divided country."  

 

  t is perhaps not an accident the most confident Democratic tribunes of good feeling are all men, while the party’s sternest warriors are mainly women. In a contest for the presidency, a position traditionally viewed in martial terms, it may be easier for a man of Mr. Biden’s backslapping swagger or Mr. Booker’s athletic stature to show tenderness or vulnerability without fear of appearing weak.

 

(試訳2)ブッカー上院議員のような表現方式をする候補のスペースは現在までのところ比較的混んでいない。しかし、2020年選挙への出馬を模索する民主党政治家の何人かは同様の話題を持ち出している。ジョー・バイデン前副大統領とマイケル・ブルンバーグ元ニューヨーク市長双方とも超党派主義を称揚している。ベト・オルーク元連邦上院議員候補(テキサス州)は先週、オプラ・ウィンフリーに対して、「深く分断された国家」の統合を気に掛けていると語った。

 

  民主党の中で最も自信をもって良い気分を発信するのがすべて男性であることはおそらく偶然ではない。一方で、同党の大変激しい戦士は主に女性である。伝統的に戦闘的な観点から見られる大統領を目指すにおいて、バイデン氏のように過剰かつ傲慢にも見える自信を備えた男性やブッカー氏のようなスポーツマンの体格を備えた男性にとって、弱い人間と見られるおそれなしに優しさや脆さを表すのはより容易なことかもしれない。(試訳2終わり)

 

  2月20日までの報道によると、バーニー・サンダース上院議員バーモント州)が大統領選出馬を表明したようです。同議員は無所属ですが民主党予備選挙で指名を争うということで、全国的は知名度は前回選挙でヒラリー・クリントン氏と指名を争ったことによって知名度を上げた進歩派(=左派)であって、小口献金で既に3億ドルを集めたということです。

 

    同上院議員がどのような選挙運動スタイルを取るか分かりませんが、仮に、ウォーレン上院議員のような戦闘的スタイルを取るということであれば、取り敢えず、ブッカー議員にとっての「スペース」は空いたままということになります。しかし、同議員にとっての問題は、トランプ大統領と匹敵する知名度を有するバイデン前副大統領が控えていることです。

 

  ブッカー議員とウォーレン議員の違いは、実のところ、その選挙運動スタイルのみではありません。

 

 Mr. Booker’s remarks projected the jauntoptimism of a marching band --- his announcement video featured one --- Ms. Warren’s echoed with cannon fire. In a hall at the Veterans Memorial Building in Cedar Rapids and during an afternoon rally at the University of Iowa, she drew roars of applause when pledging to “attack corruption head-on” and wrangle power from a set of named foes: drug companies, gun companies and the National Rifle Association.

 

All, Ms. Warren declared, should be tamed through legislation and regulation.

 

(試訳3)ブッカー上院議員の発言は、マーチング・バンドのような生き生きとし楽天主義を打ち出したものである。実際、同議員の出馬宣言ビデオにはバンドが登場する。これに対し、ウォーレン上院議員は発言は大砲の砲撃の響きのようである。退役軍人記念ビルのホールの中やアイオワ大学での午後の集会では同上院議員は聴衆からの賞賛の雄叫びを引き出した。この時上院議員は、汚職を真正面から攻撃する」ことと幾つかの敵から権力を強引に奪い取ることを約束したのである。名指しされて敵とは、製薬会社、銃器製造会社、全米ライフル協会(NRA)である。

 

ウォーレン上院議員は、これら全て(の敵)は立法と規制によって飼いならされるべきと高らかに述べる

(試訳3終わり)

 

ブッカー上院議員が他の民主党関係者に対して財政面での規律を重んじるように促したり、企業悪について選択的に批判するのに対して、ウォーレン上院議員は腐敗や企業悪を強力を攻撃してリベラル派の大きな賞賛を浴びます。ウォーレン議員は上院において、米国のメガバンク等に対する規制や罰則を強く主張するところもあり、銀行業界からは警戒されています。 「これら全て(の敵)は立法と規制によって飼いならされるべき」というのは、別記事で紹介した「11の国のアメリカ史」における「ヤンキーダム」マサチューセッツ州はすっぽりです)のエトスを反映したものと言えるかもしれません。

 

先ほど述べたように、アイオワ州党員集会(コーカス)での出来が大統領候補指名の帰趨に大きく影響します。必ずしもアイオワ州で1位となった候補が党の候補や大統領に自動的になるわけではありませんが、この州及び翌週のニューハンプシャー州予備選挙で振るわければ選挙資金が尽き、選挙戦から淘汰されます。

 

Both approaches have a rich history in Democratic politics, nationally in Iowa --- a state that has helped elevate conciliators like Jimmy Carter and Barak Obama to the presidency, while for decades sending prairie populists like Tom Harkin to Congress.

 

Mr. Booker shares a clear political lineage with Mr. Obama, who captured the Iowa caucuses in 2008, with a message of national unity. But the party has also shifted left since then and has grown more suspicious of Republicans who harried Mr. Obama and elected Mr. Trump.

 

(試訳4) (闘い及び和解)双方の手法とも、民主党の政治の中で全国的にもアイオワでも豊かな歴史がある。アイオワ州は、ジミー・カーターバラク・オバマといった和解派を大統領まで押し上げることに貢献した。かと思うと、トム・ハーキン氏のような中西部平原地帯のポピュリストを数十年にわたって連邦議会に送り込んだのである(注:ハーキン氏は、197年から8年まで下院議員、8年から2015年まで上院議員

 

ブッカー氏は明らかにオバマ大統領と政治的血統を同じくする。そして、オバマ氏は2008年のアイオワ民主党党員集会を制したが、それは国家連帯のメッセージをもってであった。しかし、それ以来民主党はより左寄りになった。そして、共和党に対してより疑い深くなったが、それは同党がオバマ氏大統領を執拗に攻撃してトランプ大統領を選出したからである。 (試訳4終わり)

 

長くなりました。世界の行く末に大きく影響する米国大統領選挙への長い戦いはまだまだ始まったばかりです。今後も注目していかなくてはなりません。

 

お立ち寄りいただき、ありがとうございました!