【美術・建築探訪】新・北斎展 3月17日 (その4:おしまい)★そして、「奇想の系譜」へ

 こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。美術や建築にも興味があります

 さて、「新・北斎」は今回で最後とします。北斎については、当然ながらこれで終る訳ではありません。90年間の生涯は巨大であり、まだまだ未発見のことが出てくるでしょう。偽作も出てくるでしょうが、日本の内外から新たな真作が発掘されるかもしれません。何せ、大家になっても戯れに扇子に書いちゃう人でしたから。 

あの頃映画 「北斎漫画」 [DVD]

あの頃映画 「北斎漫画」 [DVD]

 

  「北斎漫画」・・・見とけばよかったなあ。

  さて、北斎にせよ、私のような凡俗の人にせよ、運良ければ学ぶことができ、また、運良ければ職を得ることができ、毎日を少しでも工夫して生きているわけです。社会における自分のいる場所というのを明らかにすることによって、生きるためのテクニック、仕事をするためのテクニックを日々磨いているとも言えます。では、何故その生業をすることを求めたかを自分に問うてみると、上辺だけの理由はあっても、その先の先には何もないと思われることが屡々です。まるで、玉ねぎの皮を剥いていくようにです。北斎が画業に志したのは何故か。それについては色々研究がなされていますし、割と以下の放送では上手く纏めてあったような気がします。 

www.hokto-kinoko.co.jp

  この放送は好きで、ポッドキャストで定期的に聴いているのです。放送では、北斎が幼少時に絵を始めることになった契機が効果的に纏められていますし、北斎が70や80にもなっても持っていた尽きぬ向上心をはかり知ることもできます。しかし、仮に現在の最高の質問者が北斎に直接訪ねることができたにせよ、北斎自身も何故画業を始めるかのきちんとした説明はできないのだと思います。自分の心を玉ねぎの皮のように最後まで剥き切ることができる人などいはしません。ですから、我々は、この天才(あるいは、「努力の天才」と言ってもいいかもしれません。)の巨体を知るためにほぼ永遠の時を使うしかないのででしょう。最近ではこういう本も出ているようですね。 

北斎と応為 上

北斎と応為 上

 

  恐らくは、フィクションは良質の正統派研究の代替物にはなれないし、また、なるべきでもないのでしょうが、ある人物や事象を読み解くためも補助的な手段にはなり得るのだと思います。今回の「新・北斎展」では、長年の北斎研究者・永田生慈さんの「永田コレクション」(総計2000点超。鳥取県立美術館に寄贈済)からの出品が多かったです(「新・北斎展」では永田氏を紹介する動画も上映されていました。)。北斎が画業を始めて70年間継続することになるモノが何だったかも「謎」ですが、永田氏が高校生の時に北斎に触れてその後(昨年急逝されるまでの)約50年間北斎研究を続けることに至った本当の理由など、本人たちにも分からないということなのではないでしょうか。

 一つだけ言えることは、近世から現在までに至る我々の社会が北斎や永田さんのような存在を可能にしてきたということです。そして、我々はそのような「余裕」をどのように残していくかを考えなければならないのでしょう。

 この項、終わります。次は、「奇想の系譜」展について報告します。