【時事英語に学ぶ】プーチン・ロシア大統領を考える。2019年3月23日付NYT紙ニュース解説

 こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。さて、久々に時事英語(新聞英語)です。諸般の事情からアップできなかったのですが、この辺でリハビリ半分に再開です。上手くいけば一日に一回程度アップしたいものです。聴く方はポッドキャストでできるのですが、読んで訳して書いては手間が掛かりますので、中々思うに任せませんが。

 さて、今回は、“How Powerful Is Vladimir Putin Really?”/Russia today doesn’t seem like “a properly run dictatorship.”というNYTロシア支局長によるニュース解説記事です(国際版への掲載は数日遅れです。)。ご興味があれば、NYTサイトにどうぞ。タイトル仮訳は、「実際、ウラジミール・プーチン大統領はどの程度強力なのか?/今日のロシアは『適切に運営された独裁国家』のようには見えない。」とでもしておきたいと思います。勿論、NYT記者が独裁国家を「適切」であるなどというはずはないのですが、これは、『独裁者の意思が文句なしに通る国家』といったような意味だと思います。  

www.nytimes.com

 記者は冒頭、 ロシアで「過激主義(extremism)」のために拘束されたデンマーク人「エホバの証人」信者について述べます。この人物が19か月もの間拘束されていた昨年12月、プーチン大統領クレムリンで信教を理由にした弾圧はよくないとの見解を示します。しかしながら、その後、このデンマーク人は禁固(または懲役)6年の判決を受けました。また、シベリアで拘束されていた宗教者に対する拷問の報道がなされるなど、プーチン大統領の発言に反する動きがあることを皮切りに、以下のような設問を提示します。

 

The gulf between what Mr. Putin says and what happens in Russia raises a fundamental question about the nature of his rule after more than 18 years at the pinnacle of an authoritarian system: Is Mr. Putin really the omnipotent leader whom his critics attack and his own propagandists promote? Or does he sit atop a state that is, in fact, shockingly ramshackle, a system driven more by the capricious and often venal calculations of competing bureaucracies and interest groups than by Kremlin diktats?

(仮訳1)プーチン大統領の発言とロシアでの出来事の乖離が提起するのは同大統領の統治の性格についての基本的な問いである。同大統領は権威主義的システムの頂点で18年以上に亘って統治をしてきた。プーチン大統領は本当に、批判者によって攻撃され、自分自身の宣伝担当者によって持ち上げられるような全能の指導者なのだろうか?  それとも、同氏は、実のところ驚くべきほど脆弱に建った国家の上、または、クレムリンからの権威ある命令よりも、むしろ、ライバル関係にある官僚や利益団体の気紛れな、また、往々にして意地汚い計算が原動力となっているシステムの上に座っているということなのだろうか?(仮訳1終わり)

 

 こういう問いって、ある国を分析するに当たって重要ですよね。仮に、ある国の指導者がこう言ったのに対して、その部下の閣僚・官僚が別の言動をするとした場合、この指導者が本当に全てをコントロールしていて敢えて観測気球を上げているのか、単純にこれら閣僚等をコントロールできないのか、によって全く違いますからね。上記文章の対ウクライナ政策や一部のビジネスマンへの取り締まり、更には、プーチン大統領が国民と直接に話をしてその要望を聞き取って問題を解決するというTV番組などもプロパガンダがあるので、強い指導者という「第一のプーチン」のイメージが強いので、実際はそうではないという見方は意外と思われるかもしれません。

 しかし、「プーチン大統領はロシアの全てをコントロールできていない」という認識は、内外の専門家の多くに共有されているもののようです。1999年にトップの座に就いたプーチン氏は、酔っ払いのボリス・エリツィン大統領が統治していた完全に機能不全のロシアを引き継いだプーチン氏が努力したのは間違いないのですが、汚職に走る官僚組織を完全に掌握できているわけでもありません。その一例としては、ロシア経済のために外国投資は重要とプーチン大統領が言っているにもかかわらず、アメリカ人投資家の逮捕が発生したりします(そして、この逮捕は、政府機関が同投資家と紛争にあるロシア企業に肩入れした結果のものです。)。この他、極東地域でのロケット打ち上げ基地建設、露中国境アムール川の架橋計画、モスクワ・セントペテルスブルグ間高速道路など同大統領肝いりのプロジェクトもうまく進んでいません。

 内外の研究者等がプーチン大統領の直面する状況を種々説明するのですが、その中で面白い表現がこちら。

 

 .... Russia today, Ms. Schulmann said, resembles not so much the rigidly regimented country ruled by Stalin as the dilapidated autocracy of Russia in the early 19th century. The ruler at the time, Czar Nicholas I, presided over corrupt civilian and military bureaucracies that expanded Russian territory, led the country into a disastrous war in Crimea and drove the economy into a stagnant dead end.

Nicholas knew the limits of his power: “It is not I who rule Russia,” he complained. “It is the 30,000 clerks.” The only real difference now, Ms. Schulmann said, is that “clerks,” or bureaucrats, now number over a million and a half.

 

 (仮訳2)....(エカテリーナ・)シューマン氏(モスクワ在住政治学者であり、プーチン大統領の「市民社会人権委員会」メンバー)は、現在のロシアはスターリンによって厳格に統制された国よりは、19世紀初めの古びてガタが来たロシアの専制国家の方にむしろ似ていると述べる。その際の統治者であるニコライ1世は腐敗した文民及び武官の官僚組織の上で君臨したのだが、この官僚機構はロシアの領域を拡げたものの、国をクリミアでの大失敗の戦争に導き、経済を行き止まりの停滞に追い込んだ。

 ニコライ1世は自分の権力の限界を知っていた。「ロシアを統治しているのは朕ではない」と彼は不満を述べた。「統治しているのは3万人の役人だ。」 シューマン氏が言う現在の唯一の真の違いとは、「役人」あるいは官僚が現在では150万人以上を算えることである。(仮訳2終わり)

 この記事は、最後の部分において、モスクワ南部数百キロのオリョル(Oryol)で拘束され、その後確定判決を受けたデンマーク人「エホバの証人」の事案について詳述します。その流れで、プーチン大統領が国内情報機関FSBに大きな裁量権を渡しており、FSBが自分の政策と矛盾した行動を取っても黙認しているという状況が語られます。

 現代では国家は大きくなり過ぎています。ジャレッド・ダイヤモンドの「昨日までの世界」などの一連の著作を繙くまでもなく、農業による余剰生産を得た社会は大型化を続け、その中で宗教者や官僚を養う余裕を得て、その後は官僚等がそれ自体の力を得ていくのはどこの国でも同じことです。ロシアの現在というのは、その一つの形ということでしょう。

 

 以上、「時事英語リハビリ」はとりあえずこんなところで。

 お立ち寄り頂き、ありがとうございました!