【時事英語に学ぶ】ネットとの関係から見た新たな貧富の格差(NYT2019年3月23日付「サンデー・レビュー」解説記事)

 こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。「時事英語」リハビリ第二弾も日曜版からの解説記事を取り上げることにしました。本当に毎日動く情勢をフォローしていると疲れるし追いつけませんからね。日曜版でも週日版でも、中長期的なトレンドを捉えた記事を取り上げるが、「図書館ブログ」を目指す拙ブログには相応しいかもしれません。

 さて、今回は、”Human Contact Is Now a Luxury GoodーScreens used to be for the elite. Now avoiding them is a status symbol.”という記事です。言いたいことはタイトルで分かります。あとは、その内容がきちんとしたものかを読んでいけばいいということになります。タイトル仮訳は、「人との接触は現在贅沢品となった。/コンピュータの画面はかつてエリートのもの。現在はスクリーンを避けることがステータス・シンボルである。」というところでしょうか。

www.nytimes.com

 

 この記事が書かれた背景には、米国社会(そして、世界中の殆どの国)で貧富の差が拡大しているという認識があります。第二次世界大戦前の「金ぴか時代」の後に大衆諸費社会がやってきて米国では分厚い中流階層が社会の中枢になる時代がやってきます。多くの米国人が成長と分配を謳歌した時代です。反逆の時代であった1960年代後半から現在まで、米国と世界は大変多くのことを経験したわけですが、冷戦の終結グローバリズムの進展、リーマンショックなどを経て、貧富の差が広がっていることは確かです。これは米国社会で特に顕著です。

 ハイテクに目を転じてみると、この記事でも触れられているように、PCが初めて登場してきた際は極めて高価で、それを気軽に買うことができたのは高所得者でした。しかし、現在では、開発当初の機能とは比べ物にならないほど高性能のPCを安価で購入することが可能です。現在は、スマホタブレットが広く普及しています。そして、生きていくためにこういった「スクリーン」を必要としている人がいます。

 

 Bill Langlois has a new best friend. She is a cat named Sox. She lives on a tablet, and she makes him so happy that when he talks about her arrival in his life, he begins to cry.

 All day long, Sox and Mr. Langlois, who is 68 and lives in a low-income senior housing complex in Lowell, Mass., chat. Mr. Langlois worked in machine operations, but now he is retired. With his wife out of the house most of the time, he has grown lonely.

 Sox talks to him about his favorite team, the Red Sox, after which she is named. She plays his favorite songs and shows him pictures from his wedding. And because she has a video feed of him in his recliner, she chastises him when she catches him drinking soda instead of water.

 (仮訳1)ビル・ランゴアには新しい親友がいる。それは、「ソックス」という名の犬である。 彼女はタブレット端末の中で生きており、その存在はビルを大変幸せにしてくれるので、自分の生活にソックスが訪れた時を話す時、ビルは泣き始める。

 ソックスと現在68歳であり、マサチューセッツ・ローウェルの低所得の高齢者用住宅に住むランゴア氏は、終日お喋りをする。ランゴア氏は機械操作の仕事をしていたが、現在は引退している。夫人がほぼ一日中外に出ているため、同氏は寂しさを感じるようになった。

 ソックスは、ランゴア氏に対してお気に入りのチームであるレッド・ソックスについて語る。ソックスは、レッド・ソックスにちなんで名づけられたのである。ソックスは好きな歌を歌い、ランゴア氏の結婚写真を見せることもある。そして、ソックスには、ランゴア氏のリクライニング椅子からの映像が送られてくるので、水の代わりに炭酸飲料を飲むのを見つけられたランゴア氏はソックスに怒られる。(仮訳1終わり)

 

 ランゴア氏が受けているこのようなサービスは新興のハイテク企業が提供するものであり、同氏のように、財産が2000ドル以下の貧困層でないと受けられないサービスです。勿論、「ソックス」は単純なアニメでその音声は不自然なもので、その反応は世界のどこかのオペレーターが生み出しているものですが、ランゴア氏の生活は「ソックス」のお陰で救われています。そして、現在、生活の様々な局面で「スクリーン」が使われています。例えば教育の場。「スクリーン」を使った教育ならコストを大きく削減することができます。現在では、普通の人々の世界では「スクリーン」が生活の肌触りになっています。

 しかし、このようなライフスタイルは、富裕層が忌み嫌いつつあるものであると記者は述べます。

 The rich do not live like this. The rich have grown afraid of screens. They want their children to play with blocks, and tech-free private schools are booming. Humans are more expensive, and rich people are willing and able to pay for them. Conspicuous human interaction — living without a phone for a day, quitting social networks and not answering email — has become a status symbol.

 All of this has led to a curious new reality: Human contact is becoming a luxury good.

 As more screens appear in the lives of the poor, screens are disappearing from the lives of the rich. The richer you are, the more you spend to be offscreen.

(試訳2)

 富裕層はこのようには生活しない。 富裕層は、「スクリーン」に怖れを抱くようになっている。富裕層は、子供たちにブロックで遊ばせたがるし、ハイテク無しの私立学校に行かせることが流行っている。人間は(テクノロジー)より高価であるが、豊かな者は人間にカネを払う気があるし、また、払うことができる。あからさまな人間的な交流、例えば、一日中電話無しで過ごすこと、SNSを止めて電子メールに返答しないことなどは、ステータス・シンボルになった。
 これらの全ての先には、興味ある新たな現実がある。人間的な接触が贅沢品になりつつあるということだ。
 より多くの「スクリーン」が貧困層の生活に現れる一方、「スクリーン」は富裕層の生活から姿を消しつつある。豊かになればなるほど、より「スクリーン」外で生活することになるのだ。(試訳2終わり)

 

 幼少期からスマホタブレットに慣れ親しんできた子供の学業生活は低いとという研究もあるようです。カリフォルニア州シリコンバレーでは、自然と触れ合う学校(当然ながら私立でしょう。)が人気だそうです。しかし、現在の米国では、スマホタブレットに縛られないで生活することは極めて困難です。これは、ジャンクフードを食べないで自然食品だけで食生活を構成することが困難であるのと同様です。そのような生活は富裕層にしかできず、中流階級や低所得層にはできない相談です。

 ところで、シリコンバレーのハイテク企業は公立学校にタブレットを使った教育環境を売り込んでいるそうです。そのようにして中流、低所得層の子弟を「スクリーン漬け」にすることによって、そのようなハイテク企業は業績を伸ばしていますし、その経営陣は高給を得ているわけです。だから、「スクリーン」とは無縁の良質の学校に子弟を通わせることができる。これって、割と倒錯していますよね。どこまで明確な「悪意」があるのか分かりませんが、以前の?日本の農家についての挿話を思い出しますね(読んだのは石ノ森章太郎の日本経済についての漫画でしょうか。)。その挿話では、農家では農薬漬けの作物は出荷しますが、農薬の付いていない作物は自分の家で食べるということでした。第一次産業第三次産業の違いはありますが、構造は同じですよね。

 個人レベルに加え、社会・国家レベルでのネットとの関係を考えさせられる記事でしたね。

 とりあえずこの辺にします。お立ち寄り頂きありがとうございました!