【時事英語に学ぶ】中国のイタリア「征服」?2019年3月26日付NYTオピニオン

 
 こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。
 時事英語リハビリ第三弾です。今回は、中国の「イタリア進出」についてのオピニオンを取り上げます。イタリア人女性ジャーナリストによるもので、3月26日付です。”Did Xi Jinping Conquer Italy or Just Buy a Lot of Blood Oranges?/The government in Rome is a very unreliable partner, even for China.”というものです。
 
 タイトル仮訳は「習近平はイタリアを征服したのか。それとも、大量のブラッド・オレンジを買い付けただけか。イタリア政府は中国にとってすら頼りがいのないパートナーである。」といったところでしょうか。「イタリアを征服」などという表現からは、ルビコン川を渡ってイタリアを掌握したユリウス・カエサルなどを想起します。
 
 中国については、拙ブログのこのカテで以前に取り上げたことがあります。

 

upanddown.hatenablog.jp

  この過去記事は、中国の「一帯一路」構想の要であるカザフスタンの状況についての現地報告でした。米国及びその主要友好国の多くは、中国との間の緊密な貿易関係を有しつつも、中国が企図していると考えられる現状変更政策に対抗するための動きを個別的あるいは集合的に取りつつあります。多くの国内政策や外交政策で対立し合う米国の共和・民主両党も、こと対中国政策については一致を見せています。エドワード・ルトワックのような論客は、中国が不用意に積極的な対外政策を取ったために、警戒感を持った各国が公式・非公式に連帯することになり、「戦略のパラドックス」が機能して中国は思い通りの成果を得られないだろうなどと論じています。 

自滅する中国

自滅する中国

 

 このような趨勢の中で、カザフスタンについて取り上げたこの過去記事も「一帯一路政策」によってカザフスタンの一般民衆は利益を得ていない等々、それなりに否定的な面が語られていました。経済的・財政的要請から中国になびく国が多いのは事実で、東南アジア、南西アジア中央アジアになどへの中国の浸透はここ数年の間で急です。その中で、新たな国との間で中国が何らかの「一帯一路」関係の取り決めを結んだり、「親中国」と見られる政権が戦略的な地域で誕生すると我が国や米国等のメディアや論客が色めき立つことになります。

  最近の一例は、イタリア・中国関係です。 

  China, a country the size of a small continent, tends to leverage its heft by negotiating with other states one-on-one rather than through regional blocs. It has put this technique to use with Asean, the Southeast Asian association, using bilateral deals to divide members. Judging by the tone of President Xi Jinping’s visit to Italy and France over the past week, China has adopted the same approach in Europe — this time pitting the Italian government, which is anti-European Union, against the pro-E.U. French government of Emmanuel Macron, among others.

  As expected, Italy signed a wide-ranging memorandum of understanding, or M.O.U., with China, becoming the first major Western economy to endorse Beijing’s colossal and controversial “One Belt, One Road” infrastructure initiative. Most contentious, perhaps, was the Italian government’s decision to grant a Chinese state-owned company access to two ports, including one used by the United States Navy that is just 100 kilometers from NATO’s largest air base in the Mediterranean region.

 But did Mr. Xi really get out of Italy what he came for?

 (試訳1)中国は小さな大陸と同じ大きさを有する国であるが、その傾向は、その重みを梃にして他の国家と一対一で交渉するというものであり、地域的ブロックを相手にするのではない。この交渉テクニックは東南アジア諸国連合ASEAN)について使われ、二国間の取り決めが加盟国を分断するために利用された。先週の習近平国家主席によるイタリアとフランス訪問のトーンから判断するに、中国は同様のアプローチを欧州においても選択した。今回は、何より、反欧州連合EU)的なイタリアをエマニュエル・マクロン大統領の親EU的なフランスにけしかけたのである。

 予想された通り、イタリアは中国との間で広範な了解覚書(MOU)を締結した。そして、主要な西側国家として、巨大かつとかく論議を呼ぶ中国政府の「一帯一路」というインフラ構想を最初に支持することになったのである。

 最も論争を呼ぶのはおそらく、中国の国有企業に二つの港の使用権を認めたイタリア政府の決定だろう。この一つは米国海軍によって使用されているものであり、北大西洋条約機構NATO)の地中海での最大の航空基地からほんの100キロ離れている港なのである。

  しかし、国家主席は、訪問の目的と言えるものをイタリアから本当に得ることができたのだろうか。(試訳その1終わり:原文を含め、太字は引用者による)

 

  イタリアは2018年6月以来、「五つ星運動」と「同盟」(ずっと以前の「北部同盟」の流れを汲む右派・反移民政党)が「異形の」連立政権を組んでいます(ジュゼッペ・コンテ首相は、「五つ星運動」所属。)。そして、今回、29のMOUが締結されましたが、筆者の意見ではそれらのMOUの多くは曖昧、あるいは、ノンコミッタルなものばかりです。その一つに、シチリア州のブラッド・オレンジが今後大量に中国に輸出され「アリババ」によって中国市場に売り込まれるというものもあります(記事タイトルはこの辺を捉えたものです。)。今回のMOUは一方が3か月前に申し出ることで無効にできること、そもそも、法的に拘束力がないものも指摘しています。MOUの他にも、中国側からはイタリア側に対して、数十年間懸案となっているトリノ・リヨン間の高速鉄道建設を進めるよう求めています。この道路が整備されれば、トリエステジェノバに陸揚げされる中国の産品の欧州での販路を拡大されるわけです。この鉄道の有用性は認められているものの、環境への影響が懸念されて反対運動が活発です。当該地域を地盤とする「5つ星運動」を含むイタリア政界の頭痛の種にも中国の影が差しているということです。

 さて、イタリア政界で、中国との関係強化は諸手を挙げて賛成されているのかと言えばそうではないと筆者は述べます。

 For all the pomp surrounding Mr. Xi’s welcome last week — royal honors, mounted guards, a soul-rending performance by the tenor Andrea Bocelli — Matteo Salvini, one of Italy’s two deputy prime ministers and its interior minister, skipped the festivities altogether.

 As Mr. Xi was arriving in Rome on Thursday evening, Mr. Salvini, who heads the League, left the city to campaign for regional elections in Basilicata, in the southeast. On Saturday, the day the M.O.U. was signed, he attended an industrial forum in Lombardia, his home province, where he said: “Do not tell me that China is a free market. Italy loses 60 billion euros a year to Chinese counterfeits.” As Mr. Xi was wrapping up his visit Sunday morning, Mr. Salvini posed with a cow and tweeted the picture with a kiss emoji saying “Happy Sunday from us.”

 Here is Italy’s most popular politician spurning his own government’s most important international agreement to date. Why? Does Mr. Salvini want to claim plausible deniability should any of the deals Italy has signed with China go sour or displease voters?

 If nothing else, his snubs and provocations suggest major divisions, or at least deep confusion, within the Italian government. It should concern China to have such a partner.

 

(試訳2)

 先週の習国家主席歓迎の儀式では、荘重な栄誉礼、騎乗の護衛兵、それにテノール歌手アンドレア・ボチェッリによる心に響くパフォーマンスがあったが、イタリア政府の2名の副首相の一人である内務大臣を兼ねるマッテオ・サルヴィーニは一切の儀式を欠席した。

 習国家主席が木曜夕刻にローマに到着した際には、「同盟」党首のサルヴィーニ氏はローマを立って南東部バシリカータ州地方選挙の選挙運動に赴いた。両国間のMOUが署名された土曜には同氏は、地元ロンバルディア州の産業フォーラムに参加していた。そこで同氏は、「中国が自由市場であるなどと私に言わないでほしい。中国の偽商品のためにイタリアは毎年600億ユーロの損失を被っている。」と述べた。日曜に習主席がイタリア訪問を締めくくった日曜の朝には、乳牛と一緒の写真を撮り、キスの絵文字と共に「ハッピー・サンデー」とツイートした。

 このように、イタリアで最も人気のある政治家が自分の参加する政府による今までに最も重要な国際約束を拒絶している。何故だろうか。サルヴィーニ氏は、中国との取り決めが破綻し有権者が不満を抱いた場合に備えて、説得力のある係る取り決めへの否認振りを示そうとしているのであろうか。

 いずれにしても、サルヴィーニ氏の侮蔑的言動や挑発は、イタリア政府内に大きな分断、または、少なくとも深い混乱があることを示唆している。このようなパートナーは中国を懸念させるものであろう。(試訳2終わり)

 

 このオピニオン後半では、「同盟」内にも親中国的な知識人がおり、同党も一枚岩でないことを説明しています。この筆者が結局のところ、どこを目指してこのオピニオンを書いたかは不分明なところもあります(他国と同様、社会が政治化されているイタリアでは、完全に不偏不党のジャーナリストなど厳密にはいませんから。)。

 我々としては、イタリアと中国の協定の中身が薄いこと、サルヴィーニ氏のような意見もイタリア内にあることを踏まえつつ、中国のような国家は、その国家目的を達成するため、常に「一歩後退・二歩前進」という姿勢を保っていることを念頭に置いて、その対外政策を見ていくべきかと思います。その観点から、このオピニオンは参考になると思いました。

 以上、とりあえず。お立ち寄り頂いてありがとうございました!