【時事英語に学ぶ】英国メイ首相をこきおろす 20190329NYTオピニオン

 こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。時事英語からも学びます

 英国のEU離脱、いわゆるブレグジットは日本の新聞でも大きく取り上げられていますから、拙ブログで取り上げるのはハードルが高いですね。この記事をゆるゆると書いている間にも事態は動いていますし、それを逐一把握してまとめることは個人では不可能です。

 「図書館ブログ」(笑)を目指す当ブログでは、このブレグジット騒動が収まっても(なかなか収まらないとは思いますが)興味を持って頂ける記事、中々日本の新聞では取り上げられないような記事を取り上げていこうと思います。その一つは「政治指導者論」です。

 ということで、今回は、ロンドン・タイムズ紙のコラムニストが英国メイ首相をこき下ろすオピニオン記事を取り上げます。”Is Theresa May the Worst Politician Ever?/The British prime minister’s deal has failed. Again.”という記事で、「テレーザ・メイは最悪の政治家か?/(ブレグジットに関する)英国首相の試みは失敗。またしても」というのがタイトル仮訳。「deal」という簡単な単語が実際には難しいです。

 

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 ブレグジットについては、トム・フリードマンがロンドン発のオプエドを書いていて、そこでは、フランスの閣僚が猫に「ブレグジット」と名付けたとの挿話が紹介されています。何故?実はこの猫、家の中にいると外に出たがります。でも、いざ飼い主がドアを開けてやると逡巡して家の中をうろうろ・・・この仕草が現在の英国の状況を想起させるからということです。英国に厳しいマクロン大統領率いるフランス政府の閣僚らしい皮肉ですね。 

 

www.nytimes.com

 

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 さて、筆者とメイ首相との邂逅は8年前の国際女性デーの際に首相官邸で開かれたパーティでのことです。一人でぽつねんとしているメイ内相(当時)に話そうとすると他の女性ジャーナリストからは、「メイ内相は何も話してくれないわよ」と言われます。そんなことはあるまい、政治家にとってジャーナリストとの関係は重要だし、と思って話をしてみたら、実際、どんな話を向けても簡単な(「一音節の」)答えが返ってくることに当惑したということです。印象的な挿話を冒頭に持ち出して読者を引き込むというストレート・ニュースでさえ使われる公式が使われているわけです。その後は、メイ首相が政治家としていかに異質か、また、そのことがブレグジット問題にどう影響しているかが描写されます。

  When Mrs. May unexpectedly became the Conservative Party’s leader optimists hoped that despite her dullness — or perhaps because of it — she would be a cautious, careful prime minister. As a former Remainer she could have sought common ground between both Leavers and the 48 percent of voters who wanted to stay. It quickly became clear she would do no such thing.

  Mrs. May has made dozens of strategic mistakes in the past three years, from calling a general election that destroyed her parliamentary majority to vindictively sacking talented members of her cabinet who had previously opposed her, to allying herself with the most destructive and intransigent Brexiteers in her Conservative Party.

  Each of these errors has stemmed from the same fatal flaw: her belief that she can lead and win without paying attention to what her allies, enemies, colleagues — and potential collaborators — want or think. Famously wooden, she seems to regard other crucial players in politics as pieces she can move around a chessboard without motivations of their own.

  European Union officials and European leaders have reeled at Mrs. May’s rigidity in Brexit negotiations over the past two years. But this is no surprise to her colleagues. A senior politician who spent years alongside her in the cabinet says that Mrs. May never understood the concept of negotiation. She simply expected the other side to give way. “With most people you go into a room and you say, I need X, you need Y, and the two of you end up with Z. It’s iterative, a compromise. She just doesn’t work like that.”

 

(仮訳)メイ氏は予想外で保守党党首になった際、楽観的な考えの持ち主は希望を抱いた。その退屈な性格にも拘わらず、あるいは、その性格の故に、メイ氏は慎重かつ丁寧におとを運ぶ首相になるのではないかとという希望である。元々EU残留論者であるメイ首相は、EU離脱論者とEU残留を望んだ48%の有権者との間の共通基盤を追求することができたはずである。すぐに明らかになったのはメイ首相はそんなことをしないということだった。

  メイ首相は、この過去3年間、多数の戦略的失敗を犯した。それは、議会での多数を無くした総選挙の実施、過去に自分に反対した才能ある閣僚を報復的に罷免したことから、保守党内で最も破壊的で非妥協的なEU離脱論者と組んだことに及ぶ。.

  これらの間違いはすべて、同じ致命的な欠陥であるメイ首相の信念から生じた。指導力を発揮して勝利することは、盟友、敵、協力者となりうる同僚議員の望みや考えに注意を払わなくてもできるという信念である。 ぎこちないことで有名なメイ首相は、政治における他の主要なプレーヤーを駒と見なし、彼ら自身の動機がないままにチェス盤上で動かせると考えたようだ。

  EU事務局関係者やEUの指導的政治家は、過去二年間、ブレグジットに関する交渉におけるメイ首相の柔軟性の無さに面食らった。しかし、これは、メイ首相の同僚にとっては驚きではない。メイ氏で内閣で長年ともに過ごしたベテラン政治家によると、メイ氏は交渉のコンセプトを全く理解していなかった。メイ氏は、単に相手側が諦めるのを期待するのみだ。「ほとんどの人間については、ある部屋に行って自分はXが欲しいと言い、相手がYが欲しいと言う。そして、双方がZで収まることになる。これは繰り返しであり、妥協である。メイ首相はこのような動き方をしない。」(仮訳終わり)

 

 この他にも、メイ首相は自分の置かれている政治的状況を理解しつつ、政治家や外交官などと様々なブレストをしてより良い策を生み出すという知的敏捷さを好奇心を欠いている、それよりも、ごく限られた側近や夫と議論をすることだけであるという観察があります。それでも、この数年間、居心地が悪い中で保守党党首・首相として働いてきたのは、その生い立ちから保守党に愛着を有しており、そのために英国国家のためよりも保守党の連帯を優先した結果、自分の政治的な生命のみならず、英国の国益も毀損したというのが筆者の結論です。

 行政府の長が直接選挙で選ばれる大統領制の国と違い、議院内閣制の国では、政治家同士のうちうちの評価プロセス(peer review process)で行政府の長が選ばれます。後者においては、ともすれば激情に基づいて政治の「素人」たる民衆が短期的に最高指導者を選ぶのではなく、「玄人」たる政治家が長いプロセスの中で真に有能な指導者を選んでいくとされているわけです。しかし、結果として国家の利益を毀損することになる「本来指導者たるべきでない人物」が指導者になってしまうことはあるのでしょう。   

 一つの国家は職能団体の集合であると見なすことが可能です。そして、その構成員の選定・分限・指導者の選択をきちんと行う職能団体が多ければ多いほど、その国家は強力で健全なものとなると思います(汚職等によって職能団体が往々にして機能していない国が発展途上国です。)。そして、個別の職能団体であれば、固有の困難さはあっても試験等によって構成員の選定等を適切に行うことは比較的容易です。

 しかし、国内の全ての職能集団の利害調整を行なって「最大多数の最大幸福」を達成することが使命である、最も重要な職業である政治家の選定等の基準は得てして曖昧です。そのために、この記事の筆者が述べるように本来であれば危急時の英国のかじ取りをすべきでない人物が首相になって貴重な時間を空費することになってしまうのでしょう(私は、現在の事態に立ち至ったのはメイ首相のみの責任ではないと思いますが・・・・)。

 政治家とは因果な商売ですね。古代日本で船に乗せられて航行の無事を一身に背負わされた持衰のようなものです。国がうまく行けば賞せられ、うまく行かなければ石もて追われる。しかし、高度に発展した社会は誰かにこの役割を果たしてもらわねばならないわけで、そうであれば、どのようにその「誰か」を選び評価するかを常に考えていかねばならないのでしょう。

 このメイ首相こきおろし記事は、この辺を考えさせるヒントになるかもしれません。

 長々と恐縮です。お立ち寄り頂き、ありがとうございました!

 

 

 
Prime Minister May has sought to salvage her unpopular European Union separation plan.CreditDaniel Sorabji/Agence France-Presse — Getty Images
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