【時事英語に学ぶ】イスラエル総選挙直前!20190405NYTオピニオン

 こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。時事英語からも学びます

 前回記事はこんな感じでした。英国はどこに向かうやら。

 

upanddown.hatenablog.jp

 今回はイスラエルです。来週、同国では総選挙が実施され、10年以上に亘って同国政界で重きをなしてきたベンジャミン・ネタニエフ首相に汚職疑惑が出ており、今回の選挙では同首相が率いる与党リクードが敗北するのではないかとの報道がよく見られます。勿論、ネタニエフ政権のイスラエル経済への貢献は大きなものがあります。読売新聞は数回に亘って「イスラエル争点の現場」という短期特集記事を書いていますが、4月6日付の最終話では、「ハイテク等への投資でイスラエルが大きく成長しつつも、貧富の差が拡大している」 というトーンになっています(2017年のイスラエルへの海外投資は過去最多の189億ドル。一人当たりGDPは41,180ドル)。今回取り上げるNYT常連コラムニストブレット・スティーブンス氏のオピニオン記事では、イスラエル社会に内在する幾つもの分断が語られていますが、約1120億円をハイテク関連企業に投資した富豪と平均月収(約30万円)以下で生活する7割の国民の間の分断というものもイスラエル社会にはあるのでしょう。

 この読売新聞記事末尾では、「野党の中道統一会派『青と白』を率いるガンツ参謀総長は、政府が格差対応を怠っていると批判した上で、『一部に独占された市場を国民に開放していく』と訴え、支持を集めている」との記述があります。今回のブレット・ティーブンス氏の記事は、ガンツ氏とのインタビューを含めてのものです。なお、前回、スティーブンス氏のオピニオン記事を取り上げた拙ブログの記事は以下の通りです。

 

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  なお、今回、イスラエルを取り上げるは、この読売新聞の特集記事を読んだことが契機になりました。ルポ的な記事の常道は、視覚にも訴えるエピソードが配され、その後、事実や分析が追加されるというものですね。この読売新聞記事は、この常道も押さえてあり、大変読みやすいものでした。この目で見てみると、スティーブンス氏オピニオン記事も同様ですね。

 閑話休題

 

www.nytimes.com

 

 タイトル仮訳は、「ユダヤ人の記憶とイスラエル総選挙/ネタニエフ首相への対抗馬が勝利に値する理由」としておきます。この記事はまず、激戦の総選挙戦の中で、1982年に戦死したイスラエル軍下士官の遺体回収のニュースから始まります(記事の中では、選挙戦中の遺体回収は現職のネタニエフ首相の有利に働くのではないかとの観測に対して、筆者が否定的なのはインタビューを通じてガンツ氏にほれ込んだところがあるのかもしれません。)。1982年と言えば、イスラエルレバノン侵攻を行った年です。次いで、筆者はイスラエル国家について思いを馳せます(前回の対イラン制裁の記事を見れば、筆者が親イスラエルであることは明確ですが、この数パラは中々の名文と言えます。)。

  There are things that matter more. Keeping faith with the fallen and bereaved is one of them.

  Anyone who has lived in Israel gets this. It’s a young and improvising state resting atop an ancient and profound civilization. At the heart of the civilization is common memory. Elections come and go; memory accretes. It is to everyday life what geology is to flora and fauna: grounding, shaping, slow-moving, still-growing. Memory is the true land of Israel.

  The Israeli government spent 37 years tracking Baumel’s remains to Syria and negotiating their recovery through Russia. The country will expend similar efforts to bring home other fallen soldiers held in enemy hands. It’s the core of the Jewish state’s social contract. It may not be able to keep its people safe, much less make them rich. But it will never forget or forsake them.

 

(仮訳1)物事にはより重要なものがある。(戦場で)倒れて亡くなった兵士に敬意を払うことはその一つである。

  誰でも、イスラエルに住んだことがあればこの敬意を得る。イスラエルは若く、常に試行錯誤を行なっている国であり、長い歴史を有する深遠な文明の上に納まっている。この文明の中核にあるのが共通の記憶である。選挙は通過していくものであるが、記憶は堆積する。記憶が毎日の生活に対するのは、地質が動植物に対するのと同様である。地を作り、形成し、緩慢に動き、緩慢に成長する。記憶はイスラエルの国土である。 

  イスラエル政府は37年間を費やして、バウメル軍曹の遺体の行方をシリアまで追いかけていき、ロシアを通じてその回収について交渉した。この国は、死亡して敵の手に落ちた兵士を故国に取り戻すために同様の努力を払うことにしている。これは、ユダヤ国家の社会契約の核心である。これは、イスラエル国民を安全にするものではないかもしれない。豊かにするものでは更にない。しかし、イスラエルは亡くなった兵士を忘れること、あるいは、見放すことは決してない。

                (仮訳1終わり。下線及び太字は引用者による。)

 

 センチメンタルな香りもする文章です。元々親イスラエルな米国人はこのような文章に大いに感銘を受けるでしょうし、そうでなくても一定の感銘を受けるでしょう(ただ、逆に反ユダヤイスラエル的な人々にとっては唾棄すべき文章かもしれませんね。)。訳でやや難しいのは、「improvising」でしょうか。ジャズ音楽の「即興」や手テロリストが製造して使うIEDの「即席爆弾」を使う訳にもいきません(「即席国家」?)。1948年の建国以来のイスラエルの生きてきた道(そして、現在も未来も)は、激動する環境の中で創意工夫して生き残り繁栄するための絶えない努力に基づくものであったことから、完全にぴったりするか分かりませんが、「常に試行錯誤を行なっている」としてみました。どうでしょうか。

 さて、スティーブンス氏はワシントンで「青と白」(イスラエル国旗をイメージしたもののようですね)を率いるガンツ参謀総長にインタビューしたとのことです。こういう人ですね(ウィキ日本語版はできていないようです。)。

 

en.wikipedia.org

 スティーブンス氏はガンツ氏に好印象を持ったようで、インタビューにそれほど注目すべき点がなかったことにも気にしていないようです。よくいるイスラエル人の特徴という自信があり、要点をすぐに述べ、しかも偉ぶらないという態度にも高得点を与えます。それでも、ガンツ氏の応答の中で注目すべき点を幾つか述べています。それらは、ネタニエフ首相への評価/同氏との連立の可否、パレスチナ国家、ユダヤ教キリスト教イスラム教への平等な礼拝の場所を与えることの可否、パレスチナについてのイスラエルの安全保障上のニーズ、対米関係等について質します。

 筆者は、ガンツ氏への質問の一つを最重要なものと考え、そこからガンツ氏と同様ネタニエフ首相の功績を認識しつつ、地域の敵国が一致して当たっても打ち勝つことができないほど強力なイスラエルの現在の問題は対外関係ではなく、国内での分裂であると論じます。ちょっと長いですが、リズムのある結論部分ですのでまとめて訳します。

 On what distinguishes his party from Netanyahu’s: “We have left and right; religious and secular; Druse; ultra-Orthodox women. Unity is very important. We cannot agree on everything but we must agree on the framework. … Netanyahu currently lives off this separation [between various Israeli groups]. I’m talking about my priorities, but I’m talking to everyone. He’s appealing to his base.”

 That last observation is the essential point. In many ways, Israel has defied expectations and done remarkably well over the past decade. Much of this has been Netanyahu’s doing.

 But it has come at the cost of increasing divisions between Israeli and American Jews. And intense divisions between Orthodox and non-Orthodox Jews. And embittering divisions between Jewish and non-Jewish Israelis. And between the hard-right and everyone it deems a sellout — an ever-growing group when one practices the politics of loyalists versus traitors, as opposed to the politics of friends and potential friends.

 None of these quarrels are about Israel’s enemies, who are real, deadly, and growing in number. But the quarrels have become enemies in themselves. Israel is powerful enough to defeat any of its regional adversaries, in almost any combination. It can survive the challenge of the Palestinians and binationalism, too. Whether it can survive its own descent into sectarian and ideological tribalism is another matter.

 

(仮訳その2)

 「青と白」党がネタニエフ首相のリクード党と相違する点について。「『青と白』んには左派も右派も存在する。宗教的な者も世俗的な者もいる。ドゥルーズ派も、超正統派の女性もだ。連帯が大変重要だ。我々は逐一同意できるわけではないが、フレームワークには合意しなくてはならない...。ネタニエフ首相は現在、様々なイスラエル内の集団の分離に依存している。私は自分の優先順位について話している。しかし、私は全ての人々に話す。ネタニエフ首相は自分の支持基盤にアピールしている。」  

 この最後の観察は、最重要のポイントだ。多くの場合、イスラエスは期待に打ち勝ち、過去10年間特筆すべき成果を挙げた。その成果の多くはネタニエフ氏によるものである。

 しかし、この実績は、イスラエルと米国のユダヤ人の更なる分裂というコストを払ってのものである。また、伝統的なユダヤ人と非伝統的ユダヤ人の間の分裂もある。苦い感情を喚起するユダヤ系と非ユダヤイスラエル人の間の分裂。そして、強固な右派と彼らが寝返り者とみなす全ての人間との間での分裂である。成長しつつあるこのグループでは、忠誠心ある者と裏切り者という政治を行い、友人と潜在的な友人を想定する政治には反対するのである。

 いかなるこれらの争いもイスラエルの敵に関するものではない。イスラエルの敵は現実的であり、極めて攻撃的であり、数が増えている。しかし、これらの争いはイスラエル国民の中の敵についてのものである。イスラエルは強力であり、地域の敵対勢力がどのような組み合わせを取っても打ち破ることができる。イスラエルは、パレスチナ人とニ国主義の挑戦を受けても生き残ることができよう。イスラエルが分派的・イデオロギー的な部族主義への自分たちの転落の中で生き残ることができるかは別問題である。 

                            (仮訳その2終わり)

 

 いよいよ明日はイスラエル選挙です。4月8日本邦紙朝刊では、与党連合有利との観測です。その国のサイズに似合わない国際的存在感を有するイスラエル。その動向に今後とも注目していきたいと思います。

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