【時事英語に学ぶ】(その22)トランプ政権の経済政策通信簿

  こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。

Strong economy, but failing policies

(NYT International edition 20190209-10 P8 [Economic View] by Justin Wolfers)


   筆者は、ミシガン大経済学・公共政策学教授。大学教授という職業柄学生の成績をつけることが習い性となっていることもあり、トランプ大統領の「経済政策通信簿」を付けることを思いついてとのことです。その手法としては、50名の著名エコノミストに対するシカゴ大の調査を利用して、貿易政策、財政政策及び金融政策という三科目について党派主義に陥らずに評価したということです。


f:id:UpAndDown:20190213142317j:plain


  タイトル試訳は、「強い経済にも拘わらず、政策は失敗」という感じです。


  ★全文掲載はいたしません。また、記事リンク張りもいたしません。ご興味があれば、NYTサイトにどうぞ。


  他の国の政治はともかく、米国大統領への米国民の支持に影響するのは圧倒的に「経済」であると言われます。米国経済の巨大さとその経済をコントロールするツールの貧弱さに鑑みれば、経済情勢の悪化によって大統領が支持を失っていくのは何か不合理な感じが以前からしていました。反対に、経済情勢が良ければ(実のところそれが前政権の政策からの効果によるものであっても)現在の大統領の支持率が上がるという構造になっています。よって、経済の好調が現政権の功績であることを如何に強調するか、逆に言えば、反対党の政策が好調な経済をどのように阻害するかについて有権者をきちんと納得させるかが大統領再選のカギになります


 この点、現在の米国経済は堅調であり、先日の「一般教書演説」ではトランプ大統領が強調するところでした。よって、今日大統領選挙が行われれば同大統領が再選される可能性は極めて高いでしょう。しかし、議院内閣制ならぬ米国では大統領選挙は2020年まで待たねばなりません。それまで好調な経済が続くか、そして、トランプ政権の経済政策はそれを可能とするものなのかどうか


  結論を先に書いてしまうと、ウォルファーズ教授の採点は「貿易政策」は「F」(落第点)、「財政政策」は「Dマイナス」(ほぼ落第)、「金融政策」は「C」(可)です。米国経済の出来栄えが「Aマイナス」(優)であることを考えれば、余りに乖離が大きいです。同教授はこの謎を解明しようとします。

  

   TRADE POLICY: F

    ・・・ None of the economists taking part in the surveys agreed with the claim that these tariffs would improve Americans’ welfare,” and all of them said global supply chains has made these tariffs more costly than they would have been in the past.

    The United States started a trade war with China, and China quickly retaliated, raising tariffs in American-made goods. Mr. Trump also created needless uncertainty with his threat to rip up the North American Free Trade Agreement ・・・ 

(試訳1)貿易政策:評価「F」

   ・・・ (シカゴ大の)調査に参加したエコノミストの中で、(トランプ政権の)関税が「米国人の福祉を改善する」という主張に賛同する者は誰もいなかった。また、全てのエコノミストが世界的なサプライチェーンによって、以前と比べて係る完全のもたらすコストは高いものになっていると述べている。

  米国は中国との間で貿易戦争を始めたが、中国は素早く米国産品への関税を引き上げることで報復した。また、トランプ大統領はNAFTAを解消すると脅すことによって、不必要な不確実性を作り出した・・・(試訳1終わり)


トランプ大統領ツイッターで自分のことを「関税男」と言うと株式市場が下落したり、様々な貿易政策を打った結果同大統領が目標とする財政赤字削減ができていないことから貿易政策は落第点」ということになるようです。現在、中国との貿易次官級協議が継続中ということですが、何らかの形で妥結された場合、80年代の貿易観を有する「関税男」の矛先はどこに向かうのでしょうか・・・


Fiscal Policy: D-

…… On this score, Mr. Trump’s fiscal policy is a colossal failure. His signature achievement is a $1.5 trillion tax cut that provided stimulus when, arguably, it was least needed. As a result, the budget deficit is atypically high for a healthy economy, and rising government debt will make it hard for fiscal policy to provide a boost when the next downturn hits. 

 …… In a survey before the bill was passed, all but one expert said the tax cut wouldn’t lead gross domestic product “to be substantially higher a decade from now.” Darrell Duffiee, the lone dissenter, said it would improve growth, but he added that “whether the overall tax plan is distributionally fair is another matter.” 

 

The problem, according to Daron Acemoglu, a prominent macroeconomist, is that while “simplification of the tax code could be beneficial,” that effect would most likely be “more than offset by its highly regressive nature.” …….


(試訳2)……この点(引用者注:好況時には政府支出を控え、不況時に増やすという財政政策の原則)について、トランプ大統領の財政政策は特大の失敗である。トランプ大統領自慢の成果は1.5兆ドルの減税だが、正に、最も必要でないタイミングで経済に刺激を与えたものだ。結果として、財政赤字は健康な経済には似つかわない大きなものになった。そして、政府負債が増えているため、次に経済が失速した際に財政政策を発動して経済に刺激を与えるのが困難になる。

  ……減税法案が可決された前の調査では、一人を除く全ての専門家が減税はGDPを「今後の10年間で実質的に増加する」ことに資するものではないと述べている。唯一の少数派であるダレン・ダフィーは、減税が経済成長が減税によって促進されると述べたが、「全般的な税制計画が所得分配上で公正であるかは別問題である」と付言している。

著名なマクロ経済学者であるダロン・アチェモグルによれば、問題は、「課税区分の簡素化は有益な可能性がある」ものの、その効果は恐らく「減税の高度に逆進的な性質によって打ち消される以上になる」ことである。 ……. (試訳2終わり) 


【英訳について。arguablyは、「議論の余地がある」という意味にも思えますが、「ある見方が正しい」ということなので、「正に」と訳出してみました。たぶん、米国でまともに大学を出ていれば意味を間違うことがないことばだと思いますが、ノンネイティブの学習者だとやはり盲点が多いですね。


財政政策についても散々な評価です。富裕層がかなり優遇される1.5兆ドル現在は共和党が大統領及び上下両院を制していた昨年だったから可能であった政策で、現在は不可能でしょう。むしろ、ここ数ヶ月の間で、「富裕層への増税」を主張する民主党の論客が増えており、世論の一定の支持を得ています。その代表格がウォーレン上院議員マサチューセッツ州。民主)、サンダース上院議員メイン州。無所属)、オカシオ・コルテス下院議員(ニューヨーク州)です。ちなみに、これら議員はトランプ大統領の「社会主義」攻撃の標的になっています。なお、ウォーレン上院議員は大統領選挙への出馬を正式表明済であり、サンダース上院議員も出馬を検討中の由です。


MONETARY POLICY:C

……. In a recent survey, 43 percent of economists gave Mr. Powell’s leadership an A, and 51 percent gave him a B (with the remaining 6 percent giving him a C). Mr. Trump’s other FED appointments have been mainstream, yielding a cast of policymakers that Jeb Bush might have appointed had he been elected president. 

……. Most industrialized countries, including the United States, have generally insulated monetary policy from political pressure, believing that such independence helps policymakers deliver low and stable inflation. Yet Mr. Trump has repeatedly criticized Mr. Powell for not setting interest rates lower, and has reportedly raised the possibility of firing him. The president is playing a self-defeating game, because he is making it harder for Mr. Powell to deliver low rates without appearing to have been bullied by Mr. Trump.


(試訳3)金融政策:評価「C

……. 最近の調査では、43パーセントのエコノミストが(ジェローム・)パウエル連邦準備委員会FRB議長の指導力A」評価を与え、51%が「B」評価を与えている(残る6%が「C」評価)。トランプ大統領が任命したその他のFRBも主流派であり、仮にジェブ・ブッシュフロリダ州知事大統領になったとしても任命していただろう金融政策決定者が配されることになった。

……. 米国を含む殆どの先進国では一般的に、金融政策を政治的な圧力から隔離してきた。これは、そのような独立性によって、金融政策決定者が低めで安定的な物価上昇をもたらすことが助けられるとの信念によるものである。しかし、トランプ大統領金利を低めに保たないことについて繰り返しパウエル議長を批判した。また、伝えられるところでは、同議長を罷免する可能性を示唆した。ここでトランプ大統領は、自滅的なゲームを戦っている。なぜなら、同大統領は、パウエル議長が金利引き下げをする際、大統領に責められたからのように見えないようにすることを困難にしているからである。(試訳3終わり)


  いきなりジェブ・ブッシュフロリダ州知事が出てきますが、この人は第41代大統領の息子で第43代大統領の弟で、米国のエスタブリッシュメントの一員。フロリダ州知事としての施政能力にも一定の評価がありますから、彼が大統領になったら主流派の経済専門家をFRBに置いたのでしょう。上記の最後の文章はわかりにくいんですが、あまり大統領が口を出すと、FRBの判断が純粋に経済事情を見てのものかについて疑念が寄せられるということでしょう。実際、先日利上げを保留した際にはトランプ大統領の主張を忖度したもののようにも見えました。金融政策の要諦は、中央銀行に然るべき人材を配してプロフェッショナルな仕事をさせればいいということからみれば、トランプ大統領の金融政策は辛うじて「及第点」ということなのでしょう。


  ウォルファーズ教授の最大の疑問は、「経済政策がこれほどに悪いのに、経済の実態がこれほどまでに良いのはなぜか」ということです。トランプ大統領が2010年以降の好調な経済を引き継いだという「幸運」はあります(そして、それが偶然であるにせよ、好調な経済は現職大統領への支持上昇につながります。)。


    また、同教授の懸念は、「単に、トランプ政権の経済政策の悪影響がまだ表に出ていないだけではないか」ということです。共和・民主両党のオーソドックスな経済政策をすべて否定するトランプ大統領多数の正統派エコノミストの判断のどちらが正しいかと言えば、筆者は後者の肩を持ちます(当たり前と言えば当たり前ですね。)。


  今後注視すべきは、このような悪影響がどの段階で米国経済に現れるかとことでしょう。そして、その影響が米国政治のみならず、対日関係を含む国際情勢にどのような影響を及ぼしうるかについて、日本の主権者たる国民は目を配るべきなのだと思います


  お立ち寄り頂き、誠にありがとうございました。