【時事英語に学ぶ】(その21)トランプ大統領による「社会主義」批判

   こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。はい新聞記事からも学びます


Trump casts socialists as Americans’ new threat/Calling Democrats leftists in Venezuelan mould could be preview of 2020 rhetoric (NYT20190208 P1 WHITE HOUSE MEMO by Michael Tackett)

    相変わらず、トランプ大統領についてです。とりあえず米国紙を素材にしているので仕方がないところだとは思っています。また、日本の「主権者」としては、東アジアが依然として戦争状態(朝鮮戦争は休戦中だし、ロシアとは平和条約未締結)である中、唯一の正式「同盟国」であるアメリカの国家元首については知り過ぎるくらいで良い程だと思っています。また(ややこしいですが)トランプ大統領を見る米国紙の論調を見てみて、「知ってるつもり」の米国をより良く知ることが肝要かと思います。なお、アメリカの俯瞰的な理解については読書カテの「11の国のアメリカ史」で追っていきたいと思います。(内部リンクが貼れなくてすいません。)

 

    タイトル仮訳は、「トランプ大統領アメリカ人の新たな脅威として社会主義者を振り付ける」/民主党ベネズエラ流の社会主義者と呼ぶのは、2020年大統領選のレトリックの予告かもしれない、としておきます。"casts"というのは映画や演劇からの類推で、「振り付ける」としてみました。2016年選挙で振り付けられたのは中南米からの移民希望者でした(今でも悪役ですが)が、今回は「社会主義者」が加わりました。

 

     今回取り上げる記事でも言及されていますし、今まで取り上げられた記事にもあることですが、トランプ流政治の特色は(ツイッター多用を除けば)誰かを「諸悪の根源」とレッテル貼りすることです。勿論、長い(短い)人間の歴史の中で、共同体や国家の共通の敵とした例は枚挙に暇はないのですが、世界最強国・我が国の同盟国である米国で起こっていることが重要です。

 

    ★記事全文の貼り付けもリンク張りもしません。ご興味があれば、NYTサイトにどう

 

    日本の新聞記事でも一部出ていたのですが、先日の「一般教書演説」においてトランプ大統領が「社会主義」について警鐘を鳴らしたことについての一種の解説記事です。なお、この件については、NYT常連コラム二ストでプリンストン大教授のポール・クルーグマン氏がトランプ批判コラムを書いています(太陽が東から昇ると同じくらいに簡単に予想されることです。)。そのコラムは余裕があれば取り上げるとしまして、まずはこの記事です。

    このカテでもしばしば取り上げたベネズエラがマドゥーロ大統領の下で混乱と貧困に喘ぐこと取り上げつつ、トランプ大統領は「米国は社会主義国家にはならない」と言明します。


  The speech contained more than a few suggestions of what Mr. Trump's 2020 campaign could look like. The president dwelled on the economy, pointing to the low employment rate, continuing growth and the tax cut passed by the last Republican Congress. He spoke of trying to reduce prescription drug costs and battling H.I.V., perhaps with an eye to the kinds of suburban female voters who deserted Republicans in the midterm elections. And for his hard core followers, he argued for the border wall. 


  The threat of socialism was something new. But it could become the kind of rhetorical touchstone in his re-election campaign that sounding "criminal illegal aliens" was in 2016.


試訳1)(一般教書)演説には、トランプ大統領の2020年の選挙運動がどのようなものになるかについて少なからぬヒントがある。同大統領は経済について多くを語った。その中で、低失業率、成長の継続、共和党優位の連邦議会が成立させた減税に言及した。大統領は処方薬価低減への努力とHIVに取り組むことについても語った。おそらくこれは、先の中間選挙共和党を嫌って離れていった郊外部の女性有権者などに目を向けたものであろう。そして、中核的な支持者に対しては、国境の壁建設を進めると述べた。


  社会主義の脅威は新しい話である。しかし、それは、2016年の選挙戦で「犯罪性のある不法移民」を試したように、再選に向けての選挙運動におけるスピーチの上での試金石となる可能性がある。(試訳1終わり)


【英訳について。Suggestionsにはもう少し良い訳がありそうなんですが、「ヒント」などとしてみました。


  この記事によると、昨秋、大統領経済諮問委員会(CEA)は「社会主義機会費用」(The Opportunity Costs of Socialism)という72ページの報告書を出したということです。1ページ平均二回「社会主義」に言及したこの報告書は、旧ソ連等の社会主義の失敗を縷々述べたものだということです。トランプ大統領の「一般教書演説」の狙いは、自らを「社会民主主義者」とする一部民主党議員(既に大統領選への出馬を表明している者か、今後出馬の可能性がある者)を過去の失敗を米国にもたらすものだとレッテル貼りすることなのでしょう。


    この議論の是非はともかく、純政局的な観点ではこのレッテル貼りが機能するかどうかだけが問題です。専門的な学究や知識人はともかく、一般の米国民は(信じがたいことではありますが)「社会民主主義」と「共産主義」の区別ができない者が多いということなので、うまくstickするかもしれませんね。共和党ストラテジストで従来からトランプ大統領に批判的だった人物も期待を表明します。


But it was no accident that Mr. Trump chose to introduce the socialism menace in perhaps the highest-profile setting available to a president as the first step in trying to paint Democrats as too far left, just as they start to engage in a presidential nominating process that will shape the party’s image.


  And even some of the presidents harshest critics say he may be on to something.


“The idea of throwing the socialist thing out there politically is pretty crafty because, truly, there is just enough truth in there to make it sticky and interesting,” said Mike Murphy, a Republican strategist and longtime Trump critic. “They arelurching left. For once, somehow, a little honesty crept into one of Trump’s proclamations. It’s code for the loony left.”


(試訳2)しかし、トランプ大統領が恐らく大統領としては最も目立つ(一般教書演説という)場面において社会主義の脅威を持ち出したのは偶然ではない。民主党が自党のイメージを形成する大統領候補指名プロセスへの関与を開始した現在、トランプ大統領によるこの発言は、民主党は左寄り過ぎだと印象付ける第一歩である。


  そして、トランプ大統領を最も厳しく批判している者ですら、同大統領は何かを達成するかもしれないと言う。


  社会主義者云々を(民主党側に)投げつけるというアイディアは、政治的にはかなり老獪なものだ。本当のところ、十分に真実味があるので民主党側に貼りつく面白いものになるかもしれない。と長年にわたってトランプ氏を批判してきた共和党ストラテジストのマイク・マーフィー氏は述べる。「民主党急速に左傾している。初めて、トランプ氏の主張にほんの少し誠実な議論が入り込んできた。『社会主義』とは常軌を逸した左派のための一種の記号である。」(試訳2終わり)


 【英訳について。Lurchには「舟が急速に傾く」という意味もあるそうなので、日本語でよく言われる「左傾」云々を充てました。】


 米国政治や米国映画に多少知識がある方なら、この記事を読んで「WAG THE DOG」という映画を想起された方もおられると思います。この映画では、大統領のセックス醜聞を揉み消すために架空の戦争を作り上げた「揉み消し屋」(あるいは「スピン・ドクター」)と映像ディレクターをロバート・デニーロダスティン・ホフマンが演じていました。「社会主義」という概念とアルバニア戦争という映像ではモノが違うのですが、現実とは多かれ少なかれ異なる「幻影」を提示してそれを敵とするという構造は似ています。



 続々と左派の政治家が大統領選挙戦に参入する民主党の動きを捉えてトランプ大統領が切った「社会主義カード」、果たして、切り札(トランプ)になるでしょうか


   お立ち寄り頂きありがとうございました!