【時事英語に学ぶ】(その11)トランプ政権の対ベネズエラ外交。アメリカファーストからの急転回
こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。
2019年1月26・27日付のニューヨークタイムズ国際版に米国と中南米との関係について学ぶことができる記事が二本載っていたので、紹介します。まずは、ベネズエラ関連。
★全文掲載やリンク貼りはしません。ご興味があれば、NYTサイトにどうぞ。
Trump takes sharp turn on ‘America Frist’ policy/Demanding regime change in Venezuela creates new risks for administration
(NYT International Edition 20190126-27 P1 [News Analysis] by Peter Barker and Edward Wong)
(記事タイトル試訳)
「トランプ大統領の『アメリカ・ファースト』政策からの急展開/ベネズエラにおける体制変更の要求はトランプ政権にとっての新たなリスクをもたらす」
現在、中南米が中々騒がしいですね。ブラジル然り、メキシコ然り、そして、この記事で取り上げられているベネズエラ然りです。ベネズエラは、以前のチャベス大統領が反米政策を掲げていたのは記憶に新しいところです。
同国では、米国との関係悪化もあって、豊富な石油資源があるにせよ経済は低迷しています。そして、最近の最も大きな同国での出来事は、チャベス大統領を継承したニコラス・マドゥーロ大統領の再選を巡る騒動です。現在、国会議長のホアン・グアイド氏が大統領選の不正を唱えて自ら「暫定大統領」であると宣言し、対立が続いています。この状況の中で、米国の主導によって、米州機構諸国等がマドゥーロ大統領の正統性を否定してグアイド氏を支持しています。結果、ベネズエラは米国との断交及び米国外交官の国外退去を決定しました。
アメリカよ、やればできるんじゃないかということなんですが、実はこれは政権発足以来のトランプ外交からは大きな転換です。この記事では、「初めてトランプ大統領が嫌いな独裁者(autocrat)ができた」と皮肉っぽく書いていますが、それはまあ的外れではなくて、トランプ大統領は、サウジアラビア、ロシア、北朝鮮、シリアの独裁的な為政者に強く物申すことはありませんでした。ロシアについては、2016年の大統領政権の際に同国からの手助けをトランプ陣営が得てきたとの疑いが晴れません(これはモリカケ以上の疑惑ではあるのではないでしょうか。)。
また、サウジアラビアについては就任直後の訪問の際に、アメリカは他国の政府がその国民をどのように統治すべきかについて教える立場にないと述べていますし、シリアからの一方的な撤兵宣言はバシャール・シリア大統領やロシア等を利するものです(シリアについては、結局、ボルトン国家安全保障担当大統領補佐官やポンぺオ国務長官によって、大統領の方針が事実上骨抜きになっていますが、これら政権内の対外強硬派の助言に反して一方的な撤兵宣言を行なったという事実は残ります。)。
過去2年間の外国からの引きこもり策を転換して、トランプ大統領がベネズエラに対しては積極的な介入策を取ろうとした理由はなんでしょうか。メキシコ国境の壁と言い、個人的には、ラテン・アメリカに対して特別な思い入れでもあるのかと思いたいところではあります。今回の記事の筆者の仮説は、誰がトランプ大統領の耳に囁くかで結論が変わってくるというものです。
Mr. (Marco) Rubio (Republian Senator from Florida) has been a pivotal figure in pressing the Trump administration to take a harder line on Mr. Maduro. For Mr. Rubio, like other Cuban American leaders, the ties between Mr. Maduro’s Venezuela and the Castro-era Cube loom large.
Just weeks after Mr. Trump took office, Mr. Rubio arranged for a White House meeting with Lilian Tintori, the wife of Leopoldo Lopez, an opposition leader currently under house arrest and the architect of Mr. Guiado’s rise. Mr. Trump was said to be impressed with Ms, Tintori and from then on regularly asked aides for updates about Venezuela. Mr. Rubio also gave the White House a list of Venezuelan officials to target, and they were duly sanctioned by the administration.
(試訳1)
マルコ・ルビオ連邦上院議員(フロリダ州選出)は、トランプ政権に対してマドゥーロ・ベネズエラ大統領に対してより厳しい姿勢を取るよう圧力を掛けてきた中心人物であった。他のキューバ系米国人指導者にとっては、マドゥーロ大統領のベネズエラとカストロ時代のキューバとの関係は心に大きな影を落とす。
トランプ大統領就任数週間後、ルビオ上院議員はホワイトハウスとリリアン・ティントリ氏との会合を取り持った。ティントリ氏は、(ベネズエラの)体制反対派政治家であり現在自宅軟禁中であるが、(暫定大統領を自称している)グアイド氏台頭の立役者である。トランプ氏は、ティントリ氏に感銘を受けたと言われており、同氏との面談後から側近に対してベネズエラの状況について定期的に状況報告をするように求めるようになった。また、ルビオ上院議員はホワイトハウスに対して、標的とすべきベネズエラ関係者の一覧を渡したが、これらの者はトランプ政権によって粛々と制裁されていった。
(試訳1終了)
ベネズエラに対して強硬/積極姿勢を取ることについては、ポンペオ国務長官やNSCの中南米担当幹部も同調しているわけですが、上記では、フロリダ州選出のルビオ連邦上院議員(共和党)の政権工作の効果が大であったと説明しています。ルビオ議員はこの人です。
2016年選挙ではトランプに予備選で敗れたわけですが、大統領選挙人では極めて多数を有するフロリダ州の有力政治家というわけです(この記事では触れられていませんが、トランプ大統領の2020年再選戦略のためには、大州の有力議員であるルビオ上院議員にとっては大変重要な人物でしょう。)。なお、ルビオ氏がトランプ大統領に取り持ったリリアン・ティントリ氏とはこういう人です。
米国大統領という「王」の注意を引くには、それなりの準備が必要なんですね。ルビオ上院議員としても、反キューバ的な保守層のフロリダ州有権者には受けの良い政策です。もっとも、同州はその温暖な気候のため、保守・リベラルを超えて富裕層が移住しているところなので、ルビオ氏が同州選出上院議員として再選されること、大統領予備選挙を勝ち抜けることは必ずしも簡単ではありません。
トランプ大統領の外交方針転換には一部民主党連邦議員からの賛意が表明されています。しかし、「民主主義や人権についての米国の支援は、それが信頼の置けるものとされるためには全世界的に適用されるべきである。」という声も聴かれます。
また、ベネズエラへの体制変更も視野に入れた強硬姿勢は、マドゥーロ政権に対してベネズエラ軍部が支持を与えていることからトランプ政権へのリスクをもたらすものだという意見も聞かれます。後者の議論については、このNYT記事は最初にもってきており、それが記者の主旨であるようにも見えます。
As the Venezuelan military stands by Mr. Maduro, the situation could easily descend into further violence, with American diplomats potentially in the cross hairs. Mr. Trump said that “all options are on the table,” suggesting the possibility of military force. But even if it does not come to that, Mr. Trump faces a loss of credibility if Mr. Maduroultimately defies American pressure and hold onto power.
“The administration’s posture toward Venezuela is a foreign policy gamble that in hindsight could prove prescient” if Mr. Maduro is forced our “or reckless if that doesn’t happen, ” said Rob Malley, the president of the International Crisis Group and a former aide to Presidents Barack Obama and Bill Clinton. “At that point, the ball will be squarely in the U.S. court, with the risk that it does little and display impotence, or, worse, intervenes militarily and demonstrates rashness.”
(試訳2)
べネスエラ軍がマドゥーロ大統領を支持していることから、容易に更なる暴力的状況に陥る可能性がある。その場合、(ベネズエラにいる)米国外交官が標的になる可能性もあるだろう。トランプ大統領は「すべての選択肢はテーブルの上にある」と述べて武力行使を示唆する。しかし、仮に武力行使をしないにせよ、マドゥーロ大統領が米国の圧力を跳ね返して政権を維持したら、トランプ大統領アは信用喪失に直面する。
「トランプ政権のベネズエラへの姿勢は外交的賭けである。」もし、マドゥーロ大統領が排除されれば「後からみれば先見の明があると証明される可能性がある」とされようが、「そうならなければ、思慮不足だとされるだろう」とバラク・オバマ及びビル・クリントン両大統領の側近であったロブ・マレイ氏(インターナショナル・クライシス・グループ会長)は述べる。「その時点で、ボールは真正面に米国のコートに入ってkることになる。そして、米国はほとんど何もできない無能さをさらすか、より悪い場合には軍事的に介入して思慮不足さを見せつけることになる危険がある。」(試訳2終了)
米国は19世紀後半から中南米に対して謀略込みで積極的に介入してきた歴史があります。しかし、21世紀になり、本来であれば外国への不介入が主義であるトランプ大統領の下で軍事介入も含めての強硬手段に訴えることができるのでしょうか。ボルトン国家安全保障担当大統領補佐官は強気ですが、ペンタゴンはそのような軍事介入を是とするのでしょうか。親トランプ・反トランプを問わず、心ある米国人の多くは外交的圧力での決着を望んでいるのではないかと個人的には考えています。