【時事英語に学ぶ】ベネズエラ野党指導者の米国世論工作(その17)

こんにちは(こんばんわ)。アップアンドダウンです。美味しいお酒を呑み、良い映画を観て、素晴らしい本が読めれば幸せです。

 

The world can rescue Venezuela

(NTY International Edition 20190201 P1 [Opinion] by Juan Guaido)  

 

2019年2月1日NYT国際版第1面今話題のフアン・グアイド・ベネズエラ国会議長/暫定大統領の投稿記事です。グアイド陣営としては、米国世論(やそれを超えた国際世論)を味方につけておかねばなりません。日露戦争後から米国世論を味方にすることは国際政治の鉄則になってますから・・・。

  

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★記事全文や記事リンクの貼り付けは行いません。ご興味がある方は、NYTサイトにどうぞ。

 

この投稿記事は、1950年代に民主主義的な手続きで職務にとどまろうとした大統領(マルコス・ペレス・ジメネス)が国民の抗議活動によってその地位を追われたところから説き起こしています(この日が1958年1月23日です。)。そして、各種の失政を行い、選挙不正を行ったとされるニコラス・マドゥーロ大統領への抗議活動に重ね合わせます。

 

  私もこのブログの中で、グアイド氏を「自称」暫定大統領と紹介しましたが、この投稿記事の中で同氏は「暫定大統領」となった法的根拠を述べています。きちんとして法的な議論を重んずる層には有効な議論かもしれません。

 

I would be clear about the situation in Venezuela: Mr. Maduro’s re-election on May 20, 2018 was illegitimate, as has since been acknowledged by a large part of the international community. His original six-year term was set to end on Jan. 10. By continuing to stay in office, Nicholas Maduro is usurping the presidency.

My ascension as interim president is based on Article 233 of the Venezuelan Constitution, according to which, if at the outset of a new term there is no elected head of state, power is vested in the president of the National Assembly until free and transparent elections take place. This is why the oath I took on Jan. 23 cannot be considered a “self-proclamation.” I was not of my own accord that I assumed the function of president that day, but in adherence to the Constitution.

 

(試訳1ベネズエラの状況について明確にしておきたい。マドゥロ氏の2018年5月20日の大統領への選出は、かねてから国際社会の多くが同意するように、正統なものではなかった。もともと、同氏の大統領としての6年の任期は本年1月10日に終了するはずだった。現在もその職務に居座ることによって、ニコラス・マドゥロは大統領職を不当に占拠している

臨時大統領への私の就任は、ベネズエラ憲法第233条に根拠を得ている。憲法233条によると、新たな任期開始時に選挙された国家元首がいない場合には、自由かつ透明性ある選挙が実施されるまでは大統領権限は国民議会議長に備わることになっている。よって、1月23日に私が行った宣誓を「自己宣言」と認識することは不可能である。その日私が大統領としての権能を引き受けたのは私自身の判断という訳ではなく、憲法に従ってのことである。

 

(英語について。今後も、usurpという単語は何回も出てきます。筆者[グアイド氏本人かは知りませんが]はママドゥロ氏が大統領職についていることの不当性を強調したいのでしょう。1月23日というのは、1958年1月23日を意識して設定したのでしょうか。

 

 その後、故チャベス前大統領時の15歳の時に洪水被害経験に触れ、父方及び母方の祖父が軍隊経験者であったことからの規律を家族の中で学び、チャベス政権の中で国家が堕ちていくなかで学生時代から意識を高めて国民議会に選出されたという描写は生き生きとしています。NYT紙以外にもこの投稿がなされているかは知りませんが、自然な英語と言い、それなりの人間が米国人の琴線に触れるような文章を作るか、助言したのだと思います。

 

The struggle for freedom has been part of our DNA ever since independence was achieved in Latin America 200 year ago. In this century we have taken to the streets repeatedly, knowing that not only is the survival of our democracy at stake, but the very fate of our nation.

A pattern has developed under the Maduroregime. When pressure builds, the first recourse is to repress and persecute. I know this because buck-shot pellets fired by members if the armed forces --at peaceful protesters in 2017 – remain lodged in my own body. A minor price to pay compared to the sacrifices made by some of my compatriots.

 

(試訳2)自由への闘争はラテン・アメリカで200年前に独立が達成されて以来、我々のDNAの一部となっている。今世紀も我々は繰り返し道々に繰り出した。その際に危険にさらされているのは民主主義の生存のみでなく、我が国家の運命であったと知っていたからである。

 マドゥロ体制下ではあるパターンが生み出された。同政権への圧力が強まると、最初の防衛行動は抑圧と弾圧である。私はこれを(身をもって)知っている。なぜなら、2017年の平和的な抗議活動において軍要員が発射した散弾銃の破片が私自身の身体に留まっているからである。これは、私の何人かの同志による犠牲に比べればほんの小さな代償である。(試訳2終わり)

 

  グアイド氏によれば、マドゥロ政権によって240名が殺害され、レオポルド・ロペス氏を含む600名が政治犯として拘束されているということです。なお、このロペス氏は反対党の創立者で、夫人がトランプ氏に面談しています。同氏は、マドゥロ陣営からの対話要望を拒否し、国際社会の支援とべネスエラ国民の団結を求めています。更に、ベネズエラ軍部にも働きかけを行なっているとも言います。

 

The transition will require support from key military contingents. We have had clandestine meetings with member of the armed forces and the security forces. We have offered amnesty to all those who are found not guilty of crime against humanity.

The military’s withdrawal of support from Mr. Maduro is critical to enabling a change in government, and the majority of those in service agree that the country’s recent travails are untenable.

 

(試訳2)政権移行には主要な軍事組織の支持が必要である。我々(反マドゥロ陣営)は軍および治安組織要員と秘密の会合を重ねてきた。我々からは、人道に反する罪を犯していないと認められる者たちへの恩赦を提案した。

マドゥロ大統領に対する支持を軍が引き下げることが政府の変更を可能にするために必要不可欠である。そして、現役要員の大多数は「」ということで一致している。(試訳2終わり)

 

(「恩赦」を与えるなんて、どのような権限によるのでしょうね。それに、人道に反する罪を犯していないって、どう判断するのでしょうか・・・・。  

 

 ある国、特に途上国の政治における軍の重要性について一般論を述べると長くなりますからここでは控えます。ベネズエラにおいては軍が一定の政治性を有しているらしいことは分かります。そして、国際的な圧力、グアイド陣営からの働きかけなどを踏まえ、衷心からマドゥロ政権を支えることに二の足を踏んでいるような記事も見られます(関連記事:“Maduro hits back at dissent [NTY International Edition 20190201 P1 by Ana Vanessa Herrero and Nicholas Casey])。そのため、政権側としては、近年創設した特殊部隊(本来、麻薬業者等を取り締まる部隊)を反政府活動に参加した民衆の弾圧に使うという「禁じ手」っぽいことをし始めているようです。

 

  このようなNYT紙の報道を見ると、政権移行はそれなりに近づいているような気もしますが、実際にはまだまだ紆余曲折があるのでしょう。ベネズエラのどちら側にも大きな思い入れを持たない一日本人としては、アメリカさんが裏庭のごたごたを上手く片付けてくれたらいいなと思いますね・・・・・。